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介護保険は自立支援ではなかったのか

2016-11-22

このところの介護保険制度の改正や方向を見ていると、介護保険法がその理念から離れていってしまっているのではないかと感じます。特に次回改定について耳に入っている内容は、信じがたいものです。訪問介護員、いわゆるホームヘルパーは“お手伝いさん”ではありません。ですから、掃除や洗濯等の家事援助で訪問するのはおかしいではないか。また、介護なのだから、仕事は身体的援助に特化するべきではないかというもの。そんな介護保険の現状について、少し考察してみます。

介護を取り巻く2つの事例

例えば寝たきりの人は、身体介護だけの訪問でもヘルパーの助けがあれば同居家族の介護負担軽減も図れるため、その考えも通るのでしょう。しかし、例えば身体的には何も心配のない認知症の一人暮らしの人の場合、身体介護はほとんど必要ありません。

とはいえ、生活上の援助がなければ、在宅での生活は不可能に近いと思われます。排泄は自立していてオムツの使用は必要がないが、時おりトイレを汚してしまう。食事は提供されれば自分で食べることができるが、調理する事は難しい。あるいは「お風呂の用意ができました」と声をかければ、衣服を自分で着脱して入浴できる。このような人であっても、認知症があると1日の時間の流れや一連の行為すべてを行うことは難しく、安全の面でも見守りと声かけが必要です。

ではこういった人の場合、何か身体介護が必要なのか。または、援助なしに一人暮らしの継続は可能でしょうか。こんな例もあります。

とても料理が好きで、いつでも食べたい物は自分で調理。「好みの味付けで食べるのがいちばん幸せ」と言っているものの、心臓が悪いうえ高齢によって足腰が弱くなってしまい、長い時間台所に立っていられなくなりました。その方には、買い物と調理の援助を行っています。

台所に椅子を置き、本人は立ったり座ったりしながら一緒に台所に立ちます。野菜を洗ったり切ったり本人の希望を聞きながらヘルパーが行って、味付けは本人にしてもらいます。この方の場合も、身体介護の請求は起きてきません。しかし、ヘルパーの訪問はなくてはならないものです。

もしも生活援助が認められなければ……

先に挙げた2つの例のように、家事援助のみでヘルパーの訪問は行ってはいけません。しかしそのようにお断りすると、たちまち身体の具合が悪くなるか、もしくは在宅での生活を諦めざるをえないということになってしまうことでしょう。

介護保険法第一条には「その有する能力に応じ自立した生活をおくる」とあります。できることは極力自分で行ってもらい、その為に必要なことについて本人が辛いと感じる部分を援助するという考え方なら、介護保険の自立支援について最も必要なものは生活援助ではないかと思うのです。さらに同法律の第二条の4では、次のようにも述べられています。

「要介護状態になった場合においても可能な限りその居宅においてその有する能力に応じて……」

介護状態が重くなり、家族の介護負担が大きくて居宅での生活を諦めなくてはならない場合は多々あります。その反面、少しの手助けがあれば、住み慣れた地域で暮らし続けられる人もたくさんいるのです。しかしそういう方々に対してそのための手助けを切ってしまえば、状態が悪化してしまう。そして結果、施設に入所ということになってしまうかもしれません。もしヘルパーの生活援助が認められなくなったら、そんな構図が出来上がるのではないかと思えてならないのです。

自立支援としての介護

介護保険制度の理念は「自立支援」のはず。予算が足りなくなったから軽度の人を切り捨てるのでは、重篤化するまで制度の利用ができないと言っているようなものではないでしょうか。それでは、自立支援とはいえないでしょう。

先日、国会中継でこんなやりとりがありました。ある議員が投げかけた、介護保険制度に関する総理大臣への質問。

「入所待ちで行き場のないお年寄りが沢山おられます。はやく施設の充実を図ってほしい、どう考えているのか?」

これに対して総理大臣の答えは、「早急に充実が図られるよう進めている」というものでした。私はそこにあとひとつ、「施設入所にならないような手立てを含めて」という内容がほしかったなと思います。

加齢に伴う心身の変化によって、色々な状態が起こりえます。だからこそ精神面からも支えていく点に着目し、「支えてくれる人がいるから」という前向きな気持ちで生活してもらう。それこそが自立支援であり、介護の大きな役割ではないかと思えてなりません。

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