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在宅介護を諦めるとき

2017-08-25

私の働いている訪問介護ステーションは特別養護老人ホーム付設のステーションで、居宅介護支援センターと包括支援センター、デイサービスも併設されています。そんな中で長く訪問介護の仕事をしていて思うのが、「やっぱり人は自宅で暮らすのが一番自然で幸せなのだな」ということ。しかし中には、在宅介護を諦めざるを得ないこともあります。

施設で生活するということ

からだの具合が悪くなったり認知症になってしまったりすることで、自宅で生活することが難しくなり、施設入居となる人は珍しくありません。少し前であれば、

「年老いた親を老人ホームに入れてしまうなんて」

などと、後ろ指を指すような言葉もありました。しかし現在では、そんなことを言うもほとんどいないでしょう。介護保険制度が整備され、施設での介護は個別援助をモットーにして個人に合った接し方を目指しています。また、施設内は季節に関わらず気温が快適に保たれ、管理栄養士がいてバランスのよい美味しい食事が提供されます。それも、個人の嚥下や咀嚼の状態に合わせた調理方法で……です。

しかしそれでも、やっぱり施設は施設。当然ながら自宅ではありません。毎日全員がほぼ同じ時間に起き(起こされ)て、何十人もの人が同じ献立の食事を同じ時間に食べ、施設のスケジュールに添った日時に順番に入浴をする。自宅と職場、あるいは学校などの移動をはじめ、施設での生活には環境の変化がありません。危険はないけれど変化もない。「まるで篭の中の鳥のような生活だ」などと感じるのは、私だけではないでしょう。

ですから私は、仕事で関わった方々に少しでも長く在宅での生活が続けられるようお手伝いをし、家族の方にも負担が大きくならないための助言をさせていただいています。また、仕事のクライアントとして関わらなくても、相談を受けた場合には、できる限り自宅で暮らす方が良いと思うことをお伝えしているのです。

これまで仕事では、何人もの方の自宅での“看取り”もお手伝いさせていただきました。しかしそれでも、私から「もう在宅は無理でしょう」と話をさせていただくこともあります。

在宅を諦めた利用者の事例

要介護3のAさん・88歳(女性)は、要介護2の夫・90歳と二人暮らし。すぐ近所に長男夫婦が住んでおり、何かと世話をしてくれます。Aさんとは4年前、「要支援1」の状態で契約をしてからのお付き合いです。

はじめの頃から話の内容がかなりチグハグで、昨日と今日では話の内容に食い違いがあり、ヘルパーは「これは認知症で、『要支援』の状態ではない」と感じていました。しかしその頃は、まだ特に生活に支障をきたすということはなく、長男夫婦も「歳をとったから」というかたちでしか認識していなかったのです。実はこの時点で、専門医への受診を勧めました。認知症は早期であれば薬物治療が有効ですが、進んでしまってからでは、薬の効き目は期待できません……と。しかし、専門医を受診していただくことはありませんでした。

それから4年余り経った頃。認知症の症状は目に見えて進んでいました。調理や後片付け、湯沸かしといった『IADL(道具を使う生活動作)』機能は著しく低下。さらに感情のコントロールができなくなり、泣いたり怒ったりが激しく、少しでも不安があれば昼夜を問わず長男宅を訪ねるようになりました。また、金銭感覚がなく、同じものを大量に(羊羮30個など)購入したり、生活費をいろんなバッグにしまって、忘れては長男にお金を要求したり。

あるいは、本人の中では何か理由があるのでしょうが、端で見ている限りでは意味もなく越戸に腹を立ててケンカを仕掛けるなど。徐々にこうした言動がエスカレートしていきました。それでも、長男夫婦が「これは認知症の症状なのだ」と納得したのは、つい3ヵ月ほど前のことです。

ヘルパーの訪問回数を増やし、デイサービスの利用回数を増加。長男夫婦の希望もありなんとか在宅で生活を継続するよう努力してきましたが、介護保険の利用限度額では納まらず、自己負担が5万円程にもなりました。やがて昼夜を問わずの長男宅への訪問が酷くなり、

「泣きながらやって来るが、何を訴えているのかわからない」

ということに。行く間に、本人も忘れてしまうのでしょう。または、はじめから何が不安なのか、自分でも漠然としているだけなのかもしれません。とはいえ、このような状態が1か月も続けば、もう長男夫婦は限界です。ケアマネジャーと私で

「在宅での生活は諦めた方がいいかも良いと思います。お父さんお母さんの前に長男御夫婦が倒れてしまいます」

とお伝えしました。それでも未だ長男夫婦には迷いがあり、老人ホームの入所申し込みには至っていません。それが、両親をホームに預けてしまうというご本人たちの後ろめたさなのか、または金銭的問題なのかは分かりません。しかしこのような状態が長く続けば、長男夫婦の生活も大変なことになりかねないでしょう。また、健康への影響も危惧されます。そして、もしかするとこの老夫婦にも、24時間見守りのある生活の方が安心のような気もします。

できれば、最期まで在宅で生活できたら幸せなのだとは思います。しかし、色々なことを総合的に考えて、施設での生活をオススメする場合もあるのです。できうる限り、良き助言者でありたいものです。

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