夫婦も辛いですね

2018-07-24

認知症の症状があっても、元気に暮らしている方はたくさんいらっしゃいます。しかしそのお世話をする家族には、やはり大きな努力と苦悩があるでしょう。今回はその具体的な事例について、それに寄り添うヘルパーの視点も踏まえてご紹介します。

処方薬が飲まれておらず大喧嘩に発展

Aさん(女性、80歳)は、認知症の症状が出始めてから5年余りが経ちます。物忘れが気になり出してかかりつけの内科医に相談したところ、認知症の薬が処方されました。内科的な病気があるわけではなく、高血圧の薬を貰うために通院していたAさん。しかし、認知症の薬は定期的に増量されていきました。一般的に、認知症の専門医以外で処方される認知症の薬はミリ数が定期的に増量されます。それでも検査を行って少しでも薬の効き目が見られれば、その期間は医師の判断に委ねられるものです。

認知症は今のところ「非可逆性」の病気と位置付けられています。そのため、治療を行っても中核症状が「治る」「改善される」といった効果は期待できません。服薬により期待できるのは、進行を緩やかにするといった効果なのです。

Aさんは少ない薬量から与薬されたものの、症状は緩やかになるどころか全く効き目が確認できませんでした。そのため、医師は薬量を定期的に増量。それでも日常生活におかしな言動が目立ち始めたため、夫が薬を確かめたところ、数ヵ月分どころか処方された当初からほとんど飲まれていなかったことに気づきました。このことを本人に問いただすと、すでに認知症がかなり進行したAさんは怒り出し、大喧嘩になってしまったそうです。Aさんは、自分がきちんと服薬できていないなんて全く自覚がありません。そのため何を責められているのか分からず、夫に対しては「なんて失礼な人なんだ!」という感情しかないのでしょう。

少しずつ進行する認知症の症状

このことを期に、夫はAさんを認知症の専門医に診てもらうようにしました。しかしいくら認知症の進む速度を和らげるとはいえ、薬物治療もあまりに期を逃してしまうと、本来の効き目は期待できないもの。例えるならば、肺炎になってから風邪薬を服用するようなものです。

夫が薬の管理を行うようになり、劇的な改善も悪化もありません。それでも暫くの間は、それなりに夫婦二人の生活が穏やかに過ぎていきました。

Aさんの認知症の症状は調理ができなくなる、洗濯機が使えない、身支度が整えられない、物忘れ、勘違いが多くて物を探していたり(必要でないものがほとんど)同じことを何度も繰り返して話したりするなど、認知症の症状として代表的なものでした。しかし少しずつ症状が進むと、目の前にいる夫が誰なのか解らなくなってしまいまったのです。毎晩、夫が用意した食事を摂りながら

「あなた、もう暗くなっちゃいましたよ。家の人が心配するから帰った方がいいですよ」

「あらいやだ、もうこんな時間だから帰らなきゃ」

などと言い、近くにある電話機から自宅に電話をかけることもあるそうです。

もちろん話中。夫は「認知症なのだから仕方がない」と自分に言い聞かせ、できるだけ怒ったり説明したりすることはやめようとします。しかし、やはり時には腹が立つのを抑えられず、大きな声を出してしまうこともあるようでした。

おわりに

「食べるものくらいはなんとか用意するものの、妻の着るものまではどうして良いのか分からない。そのため、一緒に着替えの世話をしてやってほしい」

こうした依頼でAさん宅を訪問するようになって、数ヵ月が経ちます。Aさんご本人は自分のことは自分でできるという気持ちのため、ヘルパーは「ふらっとやって来る誰か」としか思われていません。

洗濯、あるいはデイサービスやショートステイに持っていく衣類を整理していても、それが自分の物だという認識のないAさん。お手伝いしながら夫から普段の行動について相談を受けますが、それもやはり自分のことだとは認識していません。ともすれば、会話の内容について全く分かっていないようにすら感じます。

目に見えて症状が進むAさんに対し、感情が抑えられなくなくなり、暴力をふるってしまったのでは取り返しがつかなくなると考えた夫。思い切って、Aさんを施設に入所させる決心をしました。そこで変更申請を行ったのですが、認定結果は「要介護2」。入所を考えていた特養は「要介護3」の方からしか受け入れができず、これでは諦めざるを得ません。他の施設という模索もありますが、「あまり環境を変えたくない」という思いから現在は限度額いっぱいの組み合わせで、もう少し頑張ってみるとのことです。

しかし、つい先日訪問したときの夫の気持ちには、ヘルパーも心を痛めました。Aさんが夫に「主人を呼んでください」と言ったので、「あなたの夫はオレだよ!オレが夫の〇〇だよ!」と返したとのこと。するとAさんは、「あなたじゃないのよ、夫は」と言ったのだそうです。

Aさんとご主人は再婚同士。そのため記憶が遡り、前夫の記憶だけになってしまったのでしょう。そのことをヘルパーに話した際の夫はとても寂しそうで、聞いているヘルパーも切なくなってしまいました。このような家族の寂しさなども受け入れられる。そんなヘルパーにならなくてはと、日々痛感します。

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