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本当に認知症? 高齢者施設の認知症ケアについて考える

2016-08-05

「認知症」と言っても、その行動障がいはさまざま。中には認知症でなく、適切な治療が必要にも関わらず認知症と判断され、症状を悪化させているケースもあります。施設として、入居されている認知症の方へ適切なケアをするには、何が必要なのでしょうか。このことについて、少し考えてみましょう。

認知症を疑わない高齢者施設の現状

近年、認知症ではないのにも関わらず認知症と診断され、症状を悪化させるケースが増えています。高齢者人口の増加に伴い、専門医ではない「かかりつけ医」が簡単な問診のみで診断するケースが増えていることが原因とのこと。これに対し、国も対策としてのガイドラインを発表しました。このような状況下で、私たち介護分野の人間が出来ることは何でしょうか。

(1)在宅介護の場合

状態変化によってサービスの種類や頻度を変更・追加する必要があります。この過程では各サービス事業者が集まる担当者会議などが行われるため、比較的多くの人の目が入ることになるでしょう。たとえご家族が「認知症が進行したから動けなくなった」等と思っていても、多くの専門家の目が入ることで隠された疾病などに気付く事もあります。そうすれば、専門機関への受診につなげることも可能です。

(2)施設入居の場合

では、すでに高齢者施設に入居されている方の場合はどうでしょうか。高齢者施設のケアを必要とする高齢者の多くが、なんらかの認知症を抱えています。よほど自立された方なら別でしょうが、入居中に何か変化があった場合は、やはり「認知症が進んだ」と職員は思ってしまうもの。認知症の診断名が付いているなら、なおさら疑うことはありません。また診断名はついていないものの、症状は少なからずあるという方が多いのも高齢者施設の特徴です。

施設は介護職や看護師、ケアマネジャー、生活相談員などの多職種で成り立っています(施設の種別による配置基準によって必要な職種は異なります)。しかしケアが施設内で完結する、同じ職員が担当するという特性から、見方にバイアスがかかりやすいのも事実でしょう。

認知症を疑わず、ケアを行ってしまう……これは非常に危険なことです。認知症の症状は、せん妄やうつ病による症状と似ている他、くも膜下出血などの一時的な症状や、精神疾患とも間違われる場合があります。私たちが「認知症の進行」や「認知症による機能低下」だと思っている症状が、実はそうではないかもしれない。本当は別の疾病が原因だったり、薬の副作用による症状だったり。そういった可能性を見過ごしているのかもしれません。私たち高齢者施設に勤務する立場の人間は、このリスクを常に考える必要があります。

誤ったケアをしないために、何をすべきか……

では、私たち高齢者施設の職員は何をすべきなのか。下記3点にまとめました。

(1)認知症や類似した症状の疾病について勉強しよう

認知症の基本知識は、非常に重要となります。さまざまなバックグラウンドを持つ方々が施設で働く今、認知症に限らず、基本知識を持たない職員も存在しています。この現状を踏まえ、知識吸収は意識して取り組むべきことです。まずは、認知症についてしっかりと勉強すること。認知症の種類や症状といった一通りの基本知識のほか、類似した症状の疾病(せん妄・うつ病・てんかん・くも膜下出血・精神疾患など)についても勉強しておきましょう。

(2)薬の副作用等の視点を持とう

薬の副作用でボーっとしているのに、認知症が進行したと誤解されてしまうケースもあります。特に抗アレルギー薬に多いようですが、認知症とは区別されなければなりません。このような薬を使用する場合は、副作用を理解した上で一時的に使用する必要があります。こういった情報は施設の看護師が知っていても、直接介護する介護職は知らない場合がすくなくないでしょう。いつもと違う言動や様子に気付いたとき、知っていて報告するのと知らずに報告するのでは、その報告内容が変わってくるのではないでしょうか。だからこそ看護職は、他職種にこういった情報を積極的に発信する必要があります。

そして介護職も、薬情やベースとなる疾患程度は把握しておきたいもの。介護職だけでなく、相談員・ケアマネ等施設に在籍するそれぞれの職種がもう一歩踏み込んだ視点を持っていれば、お互いの専門性はさらに発揮されます。そして「本当に認知症なのか?」といった議論も生まれるはずなのです。

(3)主治医との連携を図ろう

高齢者施設には外来受診する施設もありますが、多くは往診が基本です。往診する主治医は、よほど攻撃性が強いなどの特殊な場合を除き、認知症の症状だけで専門機関へ紹介するといった例は少ないでしょう。また専門機関への受診には、体力低下の著しい高齢者を屋外で連れ出し、理解できない検査をして不穏状態にさせるといったデメリットやご家族の意向もあります。何でもかんでも専門機関へというのではなく、総合的な判断が求められるのです。

こうした気軽に外来受診できない状況の中、施設職員と主治医との連携はさらに重要となってきます。しかし「認知症ではないのでは」と主治医へ進言することはおすすめしません。私たち高齢者施設の職員ができることは、情報を正しく伝えることです。

主治医が正しい判断を下すための材料を持っているのは、入居されている方の場合、私たち職員です。そのため情報を正しく収集し、正しく伝える責務があります。自分たちの立場をわきまえて正しい情報を伝えることで、主治医との連携を図っていきましょう。

ケアの工夫で改善される症状かどうか、という視点の大切さ

いくらケアの工夫を重ねても、それが認知症の症状ではなく薬の副作用によるものだとしたら、まるで見当違いの努力をしていることになります。しかし高齢者施設では、ケアの質を高めることばかりに集中し、「本当にケアの工夫で改善される症状なのか」といった視点が欠けているように思います。

必要とされるのは、ただ闇雲に頑張ることではありません。専門性を身に付け、正しい方向性で頑張ること。それには介護のスキルだけでなく、医療的な知識も必要だということです。だからこそ認知症について勉強し、専門性を高めましょう。そして、高齢者施設での誤った対応を減らしていけたらと思います。

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