訪問は利用者宅の家の前から始まっている精神疾患を患う利用者の支援で重要なこと―2

2016-06-22

精神疾患のある利用者宅を訪問するときは、いろいろな情報を得るよい機会となる。すでに自宅前に着いたときから、あらゆる『気づき』が得られ、コミュニケーションの難しい利用者を援助する際のヒントに結びつくこともある。そういった非言語レベルでの気づきも難しいが、重要なポイントである。

利用者の自宅前のたたずまいから、本人や家族の生活状況・精神状況が推測できる

利用者宅の周辺の様子から、利用者や利用者家族の生活状況や精神状態を推測することができるのか? そう思われる方もいらっしゃるかと思います。

実は私は、利用者宅に訪問するとき、すぐに家のチャイムを鳴らさず、前回訪問したときと何か変わりはないか、あたりをサッと見るようにしています。

特に初回訪問のときは、注意して様子を確認します。

敷地内に植木を植えたり、花壇を整えたりしてキチンと整理整頓している家もあれば、ボロボロになった自転車が置いてあったり、物が片づけられずに、あふれかえっていたりするような荒れた家もあります。

そんなことから得られる情報だけでも、利用者の生活状況、精神状況等、いろいろなことを推測することができます。

当然、きょろきょろ見回すのは不自然なため、極力、自然に見えるようにうまくふるまいます。だれでも自分の自宅をじろじろ見られることは気分良くありませんし、近隣の方から見たら完全に不審者です。そのうえ、利用者やその家族が、たまたまその光景を目にしてしまったなんてことがあれば、気分を害し、信頼関係が崩れる可能性もあります。初回訪問時であれば、最初から不審がられ、介入すらできなくなる最悪な事態も起こる可能性が高いのです。

また我々のような医療・福祉関係者が訪問していることを、近隣に知られたくないと本人やその家族が思っている場合もあるので、細心の注意が必要です。

ことさら精神疾患を患っている方からは、情報をなかなか聞き出すことができないケースが多いので、わずかなことでも援助者にとっては大切なのです。

実際にこれまであった例を以下に2つ挙げ、どのように利用者や家族の生活状況や精神状況を推測したのかを紹介したいと思います。

ケース1:自宅の表札からわかった利用者の葛藤

定期訪問で利用者宅に訪問したときの出来事でした。チャイムを鳴らす前にドア、表札に目をやると表札が先月と変わっていることに気づきました。先月までは利用者の苗字だけ記載されていたのが、この日は同居している方の名前も記載されていたのです。このとき、私は何かあったな、と嫌な予感がしました。

ではなぜこれだけで私がそう感じたのか?

支援介入当時から追って説明します。

初回面談時に、利用者本人と当日付き添って来られた方に対して、介護保険サービスの話をすることになりました。念のため、付き添いの方に、「身内の方ですか?」と当たりさわりないように伺ったところ、少し考えて「『同居人』としておいてください」と言われたので、それ以上は、こちらから2人の関係を詮索はせずに、恐らく同棲している間柄なのだろうと察し、深く追及はしませんでした。兄妹、身内、知人なら考えることなくすんなりと答えるでしょうし……。

利用者は病気の後遺症で高次脳機能障害になり、若くして片側上下肢がマヒし思うように動かず、働くにも働けない状態でした。病院での通院リハビリを利用する他に、いくつか通所介護を見学し、介護保険で通所介護のリハビリサービスを利用することになりました。

当初は、身体機能の向上をリハビリで図る他に、今後のことを考え、介護保険サービス以外に職場復帰がよりしやすくなるように就労支援センター等へ通うことも提案しましたが、利用者の考えでは通所介護と通院リハビリをすれば、早々に職場復帰できると思っていたため、就労支援センターの利用に関して拒否がありました。

まずは通院リハビリと通所介護のサービスを利用し、職場復帰を目ざすことになりました。しかし私が担当して3ヵ月くらい経ったころ、利用者は、思うように身体の動きが回復しないこと、金銭的なこと、また同居している方との折り合い等で悩むようになりました(同居人とのことははっきり話してくれませんでしたが、何か悩み事はありますか? と伺うとちょっと同居人とありまして……とケンカをしたようなニュアンスまでは話をしてくれるようになっていました)。

身体だけでなく精神状態までもが悪くなり、介護保険サービスで利用していた通所介護のリハビリサービスも、当初は休みなく精力的に通っていたのが、休むようになりました。

うつに陥ったと見えてから2ヵ月余、事態は好転したかに見えたが……

そこで自宅に訪問すると、利用者の顔色は悪く、不眠、食欲不振、便秘の症状も訴えるようになり、活気もなくなっています。2ヵ月近く経過しても表情が改善されなかったため、うつ病に陥ってしまったと考え、精神科の受診を提案しましたが、あまり気が進まないようでした。

そこで、まずは主治医に現状を相談するように提案しました。

しかし次第に、本人と連絡がまったく取れなくなってしまい、同居人の力も借りることができれば、と思いメールをしたのですが「本人に任せているので、直接やりとりしてください」と返信されてきたため、よほどのことがない限り同居人とも連絡をとれません。完全に手詰まりになってしまったのです。

それから2ヵ月くらい経ったあたりでしょうか。

事態が好転しました。

利用者自身がこのままでは仕事復帰ができないと思い、高次脳機能障害の家族会に参加、そのことがきっかけで、自身が患っている病気を、少しずつ受容するようになったのです。就労支援のサービスにも自ら通うことを決め、行き始めました。それがきっかけで利用者の就労に対する意欲が強まり、リハビリも熱心に通い、顔色も良くなって、精神状態は安定しました。体調も、便秘の改善には至らなかったものの、不眠は改善され、眠剤を内服しなくても眠れるようになって、食欲も少しずつもどってきました。

そんな上向きな状況の中、表札の名前が変わっていたという出来事があったのです。訪問すると利用者は笑顔で迎えてくれました。あえて表札に関して触れず、体調確認。サービスの利用状況等を聞いていると、この日の利用者の様子は最初は妙に笑顔で、会話はいつになく饒舌。話の内容も今後の自身の先々の展望から、介護保険制度や障害の制度の在り方等、多岐にわたりました。そして、最終的には険しい表情で国政批判までし始めたのです。正直、違和感を覚えました。あまりに会話が飛躍し、妙なテンション、表情も笑っているかと思えば険しくなったりと不安定。「やはり何かあったな」と気になりました。

プライベート上のデリケートな問題は、非言語レベルでの気づきが特に重要となる

その後、その利用者の介護保険更新に伴う担当者会議の件で、就労支援サービスを運営している事業所に連絡する機会があり、本人の状態について伺いました。

すると支援者からは、

「本人は就労に関して意欲的なので、プログラムは真面目にこなしているし、当初は中心人物となってみんなに声をかけてくれていた。早く就労したいという焦りがあったと思う。当初は、他の利用者のしつこい言動に対しても、みんなのことを考え注意してくれていたが、ここ最近は注意が行き過ぎることも多く、一転集中して口撃するようになって、逆に他の利用者たちから『酷すぎる』と非難が出始めていた。こちらとしては、どうしようかと考えていたのです」

と話がありました。

表札のことや妙なテンションについて、私が伝えると、支援者から「そんなことがあったのですね。表札のことを考えると、2人の間に何かあったのかもしれないし、一度面談し同居人との関係も注意しながら話を聞いてみようと思います」ということで、会話は終了しました。

表札の件は、どこまで役に立ったかはわかりませんが、さまざまなことが考えられる要素になると思っています。

生活状況の視点からいうと、2人の間で何か分岐するような取り決めをしたからこそ、表札に連名で名前を記載することになり、精神状態は、この取り決めが、実はかなりのターニングポイントになっていて、本人にしてみればショックな出来事となっているかもしれない。同居人ともめることが多くなったがそれは表に出さず、利用者の中で支援者側がわからない葛藤があったのかもしれない。それでイライラすることが多くなったのだろうと、考えました。

この利用者のケースのように特にデリケートな問題については、よほど信頼関係がないと直接伺うことは難しいので、非言語レベルでの気づきも特に重要になってくると思われます。

ケース2:犬がいると思い玄関前に餌をばらまく患者

2番目の例は、本人の病状がひどく、会話をすることができないため、自宅内に上がることすらできないので、利用者宅前で往診したという特殊なケースです。

私が訪問診療に勤めていたころの出来事です。あるとき、重度の統合失調症を患う患者の訪問依頼が身内の方からありました。困っている点として、

「私以外の人間には攻撃的になり、だれかれかまわず怒鳴り散らすし、そんな状態だから人が家に入る事はもちろん家に近づくことすらできない」

「飼っていないのに犬を飼っていると本人が思い込み、自宅前に餌をまき散らす」

「本人の様子がおかしいが、病院に連れて行きたくても外出を嫌がるので、病院に連れていくことができない」

「薬の類いも絶対に飲まない」等。

話を伺っていて、重度の統合失調症だろうと思いました。担当することになった精神科医の医師の見立ても統合失調症でした。

実際に相談者と自宅付近で待ち合わせし訪問することになりました。

医師からは、「恐らく本人と話すことはできないから、物陰に隠れて本人の様子を見て、それで処方を考える。絶対に本人に見られないように。本人に知られたら失敗するから」と強く指示がありました。

相談者には「犬が来ているから餌をあげたら?」とか言って、うまく本人を玄関から出してもらうようにあらかじめ打ち合わせをしていました。

待機する医師と私は、本人に悟られず、なおかつプライバシーの問題もあるので、何があったのか周囲の人たちに悟られず、怪しまれず、本人宅の様子を露骨に探っていることをわからないようにする、という点に留意しました。

難しい往診でした。

自宅まわりの雰囲気から、何かをつかみ感じ取る

家の敷地内は身内の方が整理しているのか、何も置かれておらず、物寂しい感じで生活感がありません。ただドッグフードのような物がまかれた跡があり、独特な雰囲気がありました。数分後、まずは相談者の身内の方が出てきて、本人がこれから出てくる、と合図をしてくれました。

すると本人が玄関から出てきました。

あたりを見回し餌をまく。そして終わるとすぐに家にもどります。

わずか1分あるかないかの出来事でした。

本人の目つきは血走り、髪はぼさぼさで伸び放題、服装はエプロンを腰に巻き、そのエプロンは汚れていて、服も同様に汚れており、異様な雰囲気でした。

本人が薬の内服に関して拒否があるため、医師はコーヒー等に混ぜて服用できるように、と水溶の抗精神病薬を処方し、それから様子を見ていくことにしました。

実際に、このような方法で往診に同席したのは後にも先にもこのケースしかありません。こういう介入方法があることを知りました。

荒れていないものの自宅に生活感はなく、餌だけばらまかれてあり、その光景がアンバランスで異様な空気を醸し出していました。こういった独特な自宅まわりの状況も、何かのサインが出ているのだなと、勉強になりました。

カイゴジョブ 介護の求人を 検索