五感という感覚器を活用したセルフケアのすすめ

2016-06-29

自分のからだの意識にスイッチを入れることからセルフケアは始まる。筆者はその方法として都内各所で「五感あそび」を実践している。通所や特養・小規模多機能などでもこのプログラムを保険外サービスとして行う。支援を受けている人も、家族も、そして支援者もみな、自分の五感の働きに感覚を研ぎ澄まし、自ら真摯に向き合うことで、体調に気づかい、健康でいるための「手当て」を行う気持ちが自然と芽生えるという。

自身の乳がんの体験から感じたセルフケアの必要性

皆さんは、“セルフケアをしていますか?”

世界保健機構(WHO)によると、「セルフケアとは、自分自身の健康は責任をもって守り、身体の不調を自身で予防したり、手当てしたりすることである」とあります。

“セルフケアはいつしますか?”

WHOの定義を考えると、「いつでも」「どこでも」「手軽に」できたほうがよさそうな気がします。

私たち一般社団法人セルフケア・ネットワーク(S.C.N.)では、「五感を活用したセルフケア」……「五感あそび」を、現在、高齢者施設などのプログラムに取り入れていただき、行っています。そのことについては後でお話することにして……そもそも私が、セルフケアの重要性を感じたのはなぜか、というところからお話ししたいと思います。

それは、私自身の乳がんの経験からでした。

今から8年ほど前のことです。なんだか体調があまり良くないと感じていました。わりと長い期間そう感じていたのですが、仕事も忙しかったこともあり「寝不足かな……」「疲れがたまっているのかも」「いや! 気のせいだ!」と、なんとなくやり過ごしていました。

そんなとき女性外来のことを知り、一度検診でも受けてみるかと、気軽にクリニックを訪れました。初めてのマンモグラフィー検診で、怪しい何かが見つかり、精密検査をすることに。それまで風邪も引かないような私にとってはまさに青天の霹靂です。

ちょうど、株式会社設立の時期と重なってしまい、「これは何かの暗示なのか」「なぜ私なのだ」「なにかの罰なのだろうか」と、いわゆるスピリチュアルペインに相当苦しみました。

思えばさまざまあったからだの変化……

乳がんのしこりが1cmに達するには、10年かかるといわれています。

考えてみれば、それまでの間、身体にはさまざまな変化があり、何度も、何度も、「あれっ?!」「なにか変!」と思うことがあったのです。しかし私は、その度に自分に都合のいい言い訳をつけ、気づかぬフリをしていたわけです。

人間には、60兆個の細胞があるといわれています。その当時を振り返ると、確かにからだ(その細胞)はさまざまな信号を送ってくれていたのです。

最初の変化は、「最近黒い服多いね」とひとから言われたことでした。色の好みは時々変わるので、そんなときもあるでしょうと思っていました。

次に香りでした。腕に痺れがあり、思うように仕事ができなかったので、その手当てに整形外科へ行ったとき、それまでどちらかというと快いと感じていたマッサージのハッカ系の匂いがとても不快だったこと。

しばらくして、顎の下に発疹ができ、やたら太陽が眩しく、明るい光や、黄色、オレンジ色が嫌だと感じたこと。直接病気に関わるようなこととは思えないけれど、「意識」を変えれば、自分自身の体調の変化に気づいたかもしれません。

医師から「やはり悪性腫瘍です」と、乳がんの診断がくだったのは、最初の検診から5ヵ月後でした。この期間は、いくら前向きに考えていこうと思っても、常に「私死ぬかも」「死んでしまうかも」という恐怖と不安で、一気に8kgも体重が減ってしまったのです。

今考えれば、それだけ急を要さない状態だったのでしょうが、当事者にとってはなんとも辛くて苦しい時間でした。

しかし私は、「せっかく得た病だ」と気持ちを切り替え、「こころとからだのつながり」について勉強してみようと思ったのです。もちろん、株式会社もそのときに設立しました(現在、株式会社の業務はすべてS.C.N.に移行しています)。

色彩心理やアロマセラピーを生活に取り入れることで五感に働きかけ、からだの声に耳を傾ける

そのような不安定な状況のなかで、私は「色で気持ちを表してみよう」と、以前、仕事のために学んだ色彩心理を生活に取り入れてみることにしました。また、仕事のために学んだアロマセラピーも同じように活用してみました。

すると、いろいろな気づきがあったのです。

色で気持ちを表現するときは、主に水性クレヨンと水性色鉛筆を使いました。クレヨンや色鉛筆で描いた画面に水を足すことで、水彩画のような仕上がりになります。気持ちが落ち込んでいるとき、また怒りが強いときに、流れるような水の力が、心に平穏をもたらしてくれました。

そのとき活躍するのは、視覚でした。人間は視覚から得る情報が8割と言われています。また、色を塗るという作業には、「見る」「配置を考える」「手を動かす」など、脳全体が活性する効果もありました。

香りにおいては、嗅覚が活躍します。

たとえばアロマ(精油)の芳香成分は、鼻の奥にある嗅覚上皮に取り込まれ、電気信号として直接脳に伝わります。「感情」や「記憶」に深く関与し、こころとからだにアプローチします。

いずれも、手作業が加わるので、触覚も活用されます。そして、同時に心地よい音楽を流したり、自然の音色に耳を傾けることで、聴覚も同じように活用されます。聴覚にはもう1つ、自分のからだの声に耳を傾けることにつながります。

これらはすべて、私たちが持ちあわせている五感という感覚器を活用しているのです。

都内の通所・特養・小規模多機能などでも行っている「五感あそび」は支援を受ける人、支援する人関係なく、みなを笑顔でヴィヴィッドに

しかし、「意識」というスイッチを入れないことには、五感は働いてくれません。「意識」のスイッチを入れれば、「いつでも」「どこでも」「手軽」に、五感を活用した、自分を自分で手当てできるセルフケアにつながります。セルフケアはある意味万能薬とも言えます。しかも、副作用がいっさいありません(ただし精油は禁忌があるのでご注意を)。

「五感を活用したセルフケア」……「五感あそび」は、現在、都内(港区・中央区)の通所介護、特養、小規模多機能居宅介護において、毎月約40名の方にご参加いただいているプログラムです。

そこでは、「大人のあそび」をテーマに、“ご本人にとって素敵なものづくり”をしています。材料費は、「有料」で、まさに保険外サービスで行わせていただいています。

元々は、それに先立ち、私が2年間ほどボランティアで行っていたものですが、内容や、材料のクオリティーが良いということで、施設や、職員の方々、そしてご本人、ご家族にもご理解いただき、有料のスタイルに変更したものです。

ご利用者の方のなかには認知症の方も多くいらっしゃいますが、「意識」というスイッチは、色を見た瞬間、香りを嗅いだ瞬間にふわぁ〜っと湧き上がり、「わぁ〜キレイな色だ」「私はこっちが好き」「いい匂いだぁ」と、五感の感覚器は確実に働き出します。

身体に麻痺のある方は、最初は手が動かないから、と積極的ではなかったのですが、今では「ここまで頑張ってみる」と、ハサミで切ることもなさるようになりました。

時間が許せば、ご家族も利用者さんと一緒に参加され、日ごろの様子などもお聞かせくださいます。

先日、万華鏡を皆さんと作ってみました。すると、それまで応答や会話が少なかった利用者さんが「なんだか学校にいるみたいだ」「勉強は楽しい」といろいろなお話をはじめたのです。職員さんは「こんな笑顔初めてみました!」「こんなにお話しされることなかったのに」と、驚きと同時に、感動していらっしゃいました。

もちろん良いことばかりではありません。数々の失敗もありますが、継続したワークショップとして、機能低下の予防や、感覚器の活用、脳の活性化につながっていると思います。

意識のスイッチを入れることから始まる五感を活用したセルフケア

五感を活用したセルフケアは、地域の方々にもご参加いただいています。区内の大学、ボランティア団体と協働し、年に4回大学施設内にて勉強会を行っています。大きなテーマは「住み慣れた地域で最期まで暮すためには」ということですが、そのためにも、セルフケアは必要不可欠です。セルフケアというと、何もかも自助で行うと思っている方もいるかもしれませんが、自分で自分をケアできることだけではありません。知らないことについて情報を得ること、できないことをできる人に助けてもらう勇気、それらもセルフケアの領域だと思います。

五感あそびのワークショップにご参加される方々の年齢層は非常に幅が広く、20代の院生もいれば、大正生まれの90代の方もいらっしゃいます。毎回暮らしの中でご活用いただく作品を作り、お持ち帰りいただきます。五感あそびには「正解」というものはありません。中にはものづくりが苦手な方もいらっしゃいますが、できないときは、できる人が手を差し伸べるという、互助が自然とできあがります。そして、1つ1つの小さな達成感が、自信につながります。

私は、五感を活用したセルフケアを、だれもが日ごろから身につけ、習慣にすることで、さまざまな悲嘆(グリーフ)の場面でも、レジリエンス(回復力)につながると思っています。

「いつでも」「どこでも」「手軽に」できる五感を活用したセルフケア、まずは、「意識」のスイッチを入れるところから、はじめていただきたいと思っています。

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