麻痺があってもジーンズを格好良くはきこなす

2016-09-02

身体の動かしにくさや麻痺が生じると、暮らしの中でこれまでとは同様にできないことが出てきます。不便さを解消するために、例えばトイレットペーパーを巻き取りから落とし紙に変える。あるいは、柄の太いスプーンを使用するなどして、方法や道具の工夫で出来なくなったことを補います。それでも「一人で出来ていたのに、なぜ……」という想いを、日々の生活の中の様々な場面で繰り返し感じることになるでしょう。希望と失望の狭間では、自分のしたいことを諦めてしまいがち。しかし地道なリハビリや諦めない気持ちで、新たな方法を模索して取り組む人たちもいます。「自分のしたいことができる生活」について、実例から考えていきましょう。

麻痺のためについたオプション

脳梗塞の発症では、後遺症として身体に何らかの麻痺を残すことが多く見られます。そのため杖や装具、歩行器、重度の後遺症では車いすの使用を余儀なくされてしまうでしょう。

1人で何でも出来ていた生活から、道具に頼る生活になる。これは、とても不便なことです。杖歩行となったある70代の男性は、次のように言っていました。

「余計なオプションがついちゃって参ってしまったよ」

地道なリハビリで不便なオプションを外す

脳梗塞後遺症のため、左半身に軽度の麻痺をきたした70代男性。3カ月の入院後、自宅での生活を再開しました。手指の麻痺と握力低下、下肢の動かしにくさの麻痺が残りました。巧緻動作が出来ないので、ボタン掛けや衣服をつまんで引き上げるなどが不便です。衣類の脱ぎ着の工夫として、伸縮性に富んだトレーナー上下が普段着に。ズボンは上げ下ろしがしやすいよう、太くて硬いゴムに入れ替えることで、指で引っ掛けて行うように工夫しました。

最初の1年は週3回の通所リハビリに皆勤で通い、下肢の動かしにくさと足底の接地感覚はやや改善。歩行はゆっくり安定してできるようになったので、杖というオプションを外すことに成功しました。そして2年目のリハビリ目標が、「ジーンズを履きたい」という意向に沿って決まったのです。

20代の頃から体系は変わっていないし、ジーンズは若いときからヴィンテージ物を収集するほど好んでいたとのこと。「本来であればトレーナーの上下は着たくない」という気持ちを、入浴介助の際にスタッフに話してくれました。そこでケアチームの中で検討したこところ、適度な硬さのあるジーンズは次の動作に移る間、形状を保つことが可能なので、「麻痺があっても好都合な良い面があるのではないか」という話になったのです。

ジーンズで通所リハビリに通う

手指に麻痺がある上でジーンズを履くことの一番の課題は、トイレでの一連の動作がスムーズに一人でできるかどうかです。

この2点について、具体的な方法でリハビリの目標を掲げました。

両足を一定の広さまで広げることでジーンズが横に張るため、このことを利用して立ったままボタンを外します。しっかり張ることが出来れば、指でボタンをつままなくとも、ボタン穴にねじ込んで外すことが可能です。ボタンを掛ける動作はこの逆。ボタン穴を指に引っ掛けて少し足の開き、加減を調整して生地の張りをたるませてボタンに穴を引き寄せます。

上げ下げは、ジーンズの生地が硬いのでストンと足元まで落ちる心配はありません。これはとても都合が良かったです。指に上手くベルト芯とベルトの穴を引っ掛けて上下させます。

この方法を、根気よく繰り返し練習することにしました。

通所リハビリの利用日は、入浴の後からジーンズを着用して実践。方法を微調整しながら、自宅でも取り組みました。そして3か月後。とうとう、自宅からジーンズをはいて通所リハビリに通うことに成功しました。

「おはよう!」

ジーンズを履きこなしているその姿は眩しく、他の利用者さんやスタッフも「格好いい!」の連発でした。

自分がしたいことに対しての想いと行動力が大切

「自分はこうしたい」という具体的な想いがあると、次の行動に移しやすく、また、実現可能になる可能性も高まります。

ある例では、右手に軽度の麻痺があっても「漬物を漬けるんだ」という想いから、キュウリや大根を切るのに重さのある出刃包丁を振り下ろすようにして使い、あっさりとその想いを叶えたという方がいました。特にリハビリへ通ったわけでもないのですが、目標達成のためのプロセスの一環として、道具の選択が理にかなったわけです。

漬物の重しの石の扱いは、あっさりと旦那さんにお願いしていました。出来ないことは無理をしないというのも、大切なことです。それでも結果的に美味しい漬物はできたのですから。

ケアプランの目標設定と意義

ケアマネジャーを中心として、ケアチームでは対象者個人の目標設定に関し、その意向に添うことが基本です。「ケアプランに載せるために」「リハビリの目標設定のため」という支援者都合にならないように、気を付けなければなりません。

特にいくつかの実際ケースから言えることは、いかに本人から具体的な希望を引き出せるかがポイントになるということ。それは「さあ、今日は目標を決めましょう」という形で引き出すのではなく、普段の会話から察知したり、あるいは自然に生活の中で取り組んでいることだったりするでしょう。もっとも理想的なのは、自然発生的であることかもしれません。

目標が定まったら、専門性とより有効で効率的な方法を提示して支援するのがチームケアの使命といえるでしょう。ケアプランのための目標設定ではなく、目標実現のための手段の一つがケアプランであることを忘れないようにしたいものです。

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