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リハビリで出来ることを実用化するための模索〜住宅改修で「できる」を実現〜

2017-05-01

介護保険による住宅改修は、初めて介護認定された際や実際に転倒してしまったときなど、利用者本人や家族が「介護が必要」と感じたごく初期に行われることが少なくありません。また、退院などを機に身体に大きな変化が生じた際などにも、住宅改修を行う場合が多いでしょう。住宅改修は一度してしまえば、追加で行うということはあまりないかもしれません。しかし身体機能の低下に限らず、リハビリの成果における機能向上に伴い、併せて住宅改修を検討していくことも必要です。今回は、段差解消のケースについて紹介します。

スロープ設置をする前に

自宅玄関から道路に面した庭先にかけて、介助でも車いす昇降できないほどの段差がある場合。まずスロープの設置が思い浮かびます。

介護保険・住宅改修のスロープの設置では、介助者が安全に車いす移動できるように考えて行われることが大切です。しかし、スロープの長さや角度、介護される側の体格によっては、介助者にかかる負担が大きい場合があります。例えば上りでは勾配を一気に押し上げなければならず、下りでは後方確認しながら後ろ向きで車いすを引きながら後退しなければいけません。思った以上に介助者の肘や肩、腰に負荷がかかるほか、足周りへの注意が常に必要です。

また、同居家族自身の普段の行き来を考えると、完全にスロープにすることがためらわれるケースもあるでしょう。外構のスロープはコンクリートで製作するため、後に後悔しないように慎重に検討しなければなりません。

車いす介助でもスロープではなく階段に改修したケース

脳梗塞後遺症のため左半身に麻痺を来しているAさんのケースでは、自宅玄関先から庭に降りるまで、2段のコンクリート製の階段がありました。既存の2段の階段は踏み幅も狭く、一段一段の高さも均等ではありません。介助があっても、車いすで昇降することは困難です。

敷地の広さが十分でしたので、緩やかなコンクリート製のスロープに改修することは可能。しかし、同居家族の夫には両足の痺れ感があり、足底の接地感覚も不十分でした。妻であるAさんの車いす介助は、スロープに改修しても夫の介助では難しい状態です。

また、夫自身がスロープを設置した場合、行き来の際、特に昇りでは後方に転倒しないかの心配がありました。実際にAさんが外出のために玄関を行き来するのは、通所リハビリサービスとショートステイ利用のとき。そのため、必ず介護職員が対応できます。さらに、Aさんは介護職員が傍についていれば、下肢装具を付けて10cmの段差を越えることが可能な方でした。

これらの条件を踏まえて検討した結果、既存の段差が不ぞろいな2段の階段の高さを均等にして、さらに1段1段の面を大きくして3段にする改修をすることにしました。

車いすを一段一段介助で乗せながら昇降する1メートル四方の階段に改修

階段1段当たりの面は100cm×100cm。そして、高さは9cmを3段。ただし、介護保険・住宅改修の許可を得るためには、改修する階段や通路の幅は最大90cmが基本とされていました。そのため、手すりを設置する支柱の分を内寸10cmと勘定することで実際に利用者さんが行き来する幅、介護保険の適用となる幅が90cmの階段であると保険者に認めてもらう必要があったのです。

この程度の面があれば、Aさんが下肢装具を付け、見守り介助で手すりにつかまって歩くことが可能。また、介護職員が車いすでテッピングバーを踏み込みながら、1段ずつ安全に昇降することもできます。歩行でも車いすでも移動できる、緩やかで面の広い階段です。

また、Aさんの夫も手すりにつかまって、ゆっくり一歩ずつ移動できます。あえて段差を残すことで、Aさん自身はもとより、介助者や同居家族の行き来の安全確保と不安感が払拭されます。時間はかかりますが、立ち止まる機会が生まれることで事故のリスクは低くなるでしょう。さらに降雪や凍結のある地域だったため、外構のコンクリート製のスロープは何かと危険を伴います。つまり、移動面に角度がないことが好ましかったのです。

住宅改修で「出来る動作」が増える機会をつくる

この住宅改修で、Aさんにとって下肢装具を付けて段差昇降が実用的になったことは大きな進歩でした。

通所リハビリと機能訓練のできるショートステイを定期利用しているAさんは、「リハビリの状況にあっては装具使用で見守り歩行ができる、段差を手すり等につかまれば昇降はできる。しかし、実用ではない」というカテゴリーの方。住宅改修したことで、「外出時の移動が見守りでできる人」になったのでした。つまり、リハビリの状況下でのみ出来ていたことが実用化したのです。

「転ばぬ先の住宅改修」と「能力に合わせた住宅改修」

いわゆる軽介護度の場合の住宅改修では、「この先転倒しない」「身体にこれ以上に無理な負荷がかかって腰や膝を痛めないように」という予防的な意味合いで住宅改修が行われることが多いでしょう。

一方、今回紹介した例のように、環境的な要因で本来出来る能力が発揮できていない場合にそれが出来る環境を整える住宅改修も考えられます。この能力に合わせた住宅改修が上手くできると、「リハビリ室では出来るのに日常生活においてはその成果を発揮できない」という悩ましいケースに対処できるかもしれません。ケアプランに掲げている目標が達成できるだけのリハビリの効果を得ているのに、環境がいつまでも阻害要因となっている場合では、住宅改修の余地がまだ残されている可能性があります。

住宅改修に限らず、福祉用具の活用や家内の家具の配置など、利用者さんの努力が生かし切れていない要因があるのではないでしょうか。しかし、ケアマネジメント期間が長くなっているケースでは、なかなかそれらを再考する機会を持っていない気がします。利用者さんの努力が生かされず、いつまでの目標に掲げられ続けてられてはいないか。ケアプランに生じているジレンマを、少しずつでも解消していきたいと考えています。

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