在宅看取りを考える〜最期にあたり「生きました」という報告〜

2017-08-09

医学の進歩によって、人間にとってがんが脅威でしかなかった時代から、現代では治るがんも多くなりました。また、完治が望めなくてもいかに苦痛を少なくしてがんと共に生きるのか、最期を在宅で迎えたいという想いを叶えるための「在宅看取り」についての体制の構築も進歩してきています。介護保険における支援でも、がん末期にある高齢者のケアをさせていただくこともあります。過日、乳がんを患い闘病していた小林麻央さんが旅立ちました。介護保険分野のケアとは世代は違いますが、終末期ケアとして非常に学ぶことも多いと感じた経験です。

残された家族の思い

小林麻央さんにおいては、闘病生活を赤裸々にブログに綴ったこと、また夫である市川海老蔵さんのブログからもその日常と献身が伺い知れ、読む者に様々な感情を抱かせることになりました。介護保険のケアを生業とする人の目線では、その文面や画像の端々からどのようケアが行われているかのイメージが出来たのではないかと思います。

介護保険でもがんをはじめとした終末期には、利用者さんが在宅看取りを選択される時は訪問診療や訪問看護、訪問介護、福祉用具貸与など、さまざまなサービスを組み合わせて在宅介護を支えます。在宅看取りの意義は、もちろん「患者(利用者)本人の意思を汲んでその最期を本人が納得いく形で全うできる」ということだと思います。また、大事な家族を送る側、残される側としては「やりきった感」が重要だと感じます。

終末期において患者(利用者)本人、家族(支援者)は日々、希望と絶望が背中合わせです。いつ、何が起きてもおかしくない状況でも調子の良いときは希望を抱き、調子が悪い時は頭では理解していても戸惑ってしまうもの。絶望感や無力感に押しつぶされそうになることもあります。そして、一生懸命力を尽くしても、朝起きたら亡くなっていたといったことも現実には少なくありません。残された家族の中には、無念な気持ちをずっと引きずってしまう人もいるのです。

関わった人にしか分からないこと

残された家族や支援者は、「もっとこうすれば良かった」「あの時の判断が誤っていたのではないか」と思うかもしれません。しかし、実際には決してそうではないはず。患者といつも共にあり、悩み、決断を共に下してきた人。そこで実際に関わった者にしか理解できないことがたくさんあります。もし迷いながら何かを判断したとしても、それがその時のベストなのです。

介護でも、やはり直接関わった者にしかわからない苦しみや感情があります。苦労しても後悔することだってあるでしょう。しかし、直接携わった人が以後生きにくくなるようではいけないと思います。

海老蔵さんは妻を見送っても、その直後と言える状況からブログを更新し、仕事や子育てを昨日の続きのように行っています。100%ではないかもしれませんが、「やりきった感」があるからではないでしょうか。

もちろん悲しみはあり、完治できなかったという悔しさもあるでしょう。しかし病気の告知を受け、治療と生活の質を上げる努力をして、最後は家族で看取りました。その過程には、いつも麻央さんの意思が最優先されたと察します。もしくは、彼女が言わなくてもそうされてきたと推測します。

麻央さんの逝去にあたり、海老蔵さんが会見を開きました。多くのコメンテーターの中で、やくみつる氏はこうコメントしていました。

「海老蔵さんの会見は麻央さんの死の報告ではなく、昨日まで生きましたよ、という生きた報告だったと思います」(要約)

「生きました」という報告ができる支援を

高齢者は自身がどうありたいか。その意思を表明できない状況にある場合が多々あります。そういう意味では、本人が意思表明できる状況にあるか、もしくは家族の希望で在宅看取りを選択するか。そのいずれかのケースを除き、高齢者の在宅看取りは選択されにくいでしょう。

今、超高齢化であり少子化である日本では、地域で生ききるために地域包括ケアシステムの構築がはじまっています。これからは在宅介護、そして在宅看取りが理想として掲げられていくかもしれません。

地域包括ケアシステムは、とても良い構想であると個人的には感じます。しかしとりあえず始動し、サービス内容に地域格差が生じていくのではないか、また介護支援が作業的に処理されていく社会にならないかという懸念は持っています。大事なのは、支援が必要なケースをその種類別にシステムの枠へ上手くはめ込むことではありません。特に意思表明できない高齢者の支援では、個人の意思や人生を扱わせていただく緊張感と慎重さを身に付けたいと思います。

その人がどう生きたいのかが、選択肢として優先的に挙げられる社会となっていくことが、私にとって理想の考えです。そして「生きました」という報告ができるような支援ができれば、素晴らしいと思います。

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