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いつもの声がけ、スピーチロックになっていませんか?

2017-11-09

「スピーチロック」とは言葉で身体的・精神的な行動を抑制することです。私たちが普段、介護をしていると何気なく使ってしまう「ちょっと、待ってね」や「座っていてください」などの言葉もスピーチロックにあたるのでしょうか。「身体拘束」という言葉を医療や介護の分野で耳にする機会は多いですね。危険回避、安全確保、医療ケアを行う観点から必要と判断したときなど、身体拘束が行われることがあります。今回は言葉による抑制とも表現される「スピーチロック」について考えていきましょう。

スピーチロックの起こりやすい状況とは

スピーチロックが起こりやすい状況の一例として、介護施設の場合が挙げられます。介護現場で何気なく使っている言葉や声がけが、身体拘束をしているつもりが全くないものでもスピーチロックとして問題となることがあります。

介護職員の人数に余裕がない状態で介護をおこなっている事業所や施設では、職員や施設全体の心身に余裕がなくなってしまい、「ちょっと待ってね」などの言葉が日常的に使われていることが多いでしょう。その言葉による声がけが結果的に利用者さんの言動を抑制することになり、スピーチロックが発生しやすい環境になります。

スピーチロックの具体例

スピーチロックには明確な線引きがありません。どこまでが声がけでどこからがスピーチロックになるかの判断が難しいです。スピーチロックについて具体例をみながら声がけの方法を考えていきましょう。

〜具体例〜

「ちょっと待っていてください」……いつまで待つの?

ショートステイでの昼下がり。車いす利用のAさん(女性・認知症の進行あり、尿意は曖昧)は、車いすに乗ったままでホールのテーブルについて座っています。洗濯物をたたむ作業ができる利用者さんたちはテーブルの上に山積みにされたタオルを一生懸命たたんでいます。Aさんは上手くたたむことも、洗濯物の山に手を伸ばすこともできません。何より小柄なAさんにとっては車いすで何かを作業するにはテーブルが高すぎるのです。

「何をするわけでもなくここにいるだけ」とAさんは感じています。腰が痛くなってきました。自分で座り直しはできません。トイレに行きたい気持ちもします。部屋に帰りたいな……。介護職員がAさんの後ろを通りかかりました。「ちょっと!」Aさんは声をかけました。介護職員は振り向いたのと同時に「Aさん、ちょっと待っていて」と言って立ち止まることはせずに行ってしまいました。

「何か用事があったの?」とAさんに聞く人は誰もいません。「何の用事だったか……」Aさんもよくわからなくなってしまいました。でも、「ああ、また無視された。いつまで待つのだっけ?」そう感じてしまいました。

利用者さんが何かしようと動き出すときや、介助者に声をかけてきたときに制止してしまう言葉、スピーチロックによってAさんは「待たなければいけない」「無視された」「何をお願いするつもりだったのかわからなくなった」という感情が生まれました。

Aさんは希望を述べることと会話から感情を引き出してもらう機会を失い、そしてトイレあるいは居室に戻るための介助をしてもらうという対処を受けることができませんでした。一人で立つ、歩くことが危険であるとされている利用者さんであって介助者にとっては相手のことを思ってする声がけでもスピーチロックになってしまいます。

また、Aさんのように認知症の進行がある場合は特に注意が必要です。介護職員に話しかけてくる内容やタイミングで、何をしたいか、どんな気持ちを抱いているのかわかる手がかりが見つかることがあるからです。それを知るにはタイムリーに対処できなければ意味がないこともあります。

認知症の人は、短期記憶が低下していますが自身が抱いた感情は強く残ってしまうといわれています。「また無視された」「拒否された」という感情はあきらめや意欲低下を招きかねません。また、徘徊などの症状があらわれている場合は「座っていてください」などの介護する側の都合のみの言葉が発せられると、本人は目的があって行動していたにも関わらず「どうして座っていなくてはいけないの」という思いになり、逆に徘徊などの行動がエスカレートしていくのです。被害妄想やせん妄に対しても悪化を招くことにもなるかもしれません。

スピーチロックにならない声がけとは

では、スピーチロックにならない声がけはどうしたら良いのでしょうか。

スピーチロックは、拘束という視点で考えることができますが、「声がけ」という行為において発生するものであります。利用者さんが介護職員に何かを訴えたとして、単に「ちょっと、待って」という言葉で何も対応しないということと「少し、お待ちください、時計の長い針が5まで動いたらまた来ますね」と伝えることでは全く意味合いが異なります。相手に認知症があってもコミュニケーションをとる方法で声がけや言葉がけが出来ればスピーチロックには当たらないでしょう。

また、声がけや言葉がけは接遇の面も併せ持っているので、当然丁寧さや思いやりの気持ちで接することができればスピーチロックそのものが起きえないということになるでしょう。

まとめ

身体拘束に比べてなじみの薄いスピーチロックですが、普段さりげなく様々な場面で行ってしまっている可能性があります。何気なく発した言葉で高齢者の行動を制限してしまうことで、高齢者は言葉を発すること、行動することをやめてしまうかもしれません。

スピーチロックが日常的に行われることで高齢者の意欲低下を招き、引きこもりや認知症の発症・悪化を招く可能性があり、実は大いに危険な行為であるといえます。幼児教育や学校教育の現場では、子どもに対しての言動や対応については世間の関心度も高く、皆が敏感になっています。高齢者でも同じことです。老いても一人一人を人間として尊重する気持ちを忘れずに対応できる人間力こそが私たちに必要とされているのではないでしょうか。

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