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介護老人保健施設が抱える課題―在宅復帰・在宅支援は本当に利用者にとって喜ばしいものなのか

2018-01-04

先般、次期介護報酬改定の大枠が決定し、その中で介護老人保健施設(以下、老健)における在宅復帰・在宅支援を従来以上に評価するといった内容がありました(平成29年12月18日通知 平成30年度介護報酬改定に関する審議報告より*)。従来の介護保険法においても、国の定めた在宅復帰率や回転率を超えた施設には報酬の加算や点数が高く設定されていましたが、その報酬が次期改定でさらに上乗せされるのではないかと思われます。そのため、老健の方向性や経営的な面からも、今後在宅復帰・在宅支援を推し進める老健が拡大していくことは容易に想像がつくでしょう。しかし、そこに入所している利用者はどうなのでしょうか? 家族や利用者は、よくある施設のイメージとして「入所したらそこに一生居ることが出来る」などと思いがち。そのようなニーズで老健に入所した利用者からすれば、在宅復帰・在宅支援を進める老健とはニーズが異なってきます。では、在宅復帰・在宅支援は利用者・家族から本当に求められていないのか。今回は、老健が担う役割である在宅復帰・在宅支援と利用者のニーズの差異について考えていきます。

なぜ家族や利用者は施設利用を希望するのか

家族や利用者の方々が、入居型施設の利用を希望する理由はさまざまです。しかしその中でも、特に多いのは「自宅で暮らすことが出来なくなったから」という理由でしょう。在宅生活が出来なくなった理由は、例えば以下のようなものが挙げられます。

それぞれ事情はありますが、共通しているのは「何かしらの生活機能が低下した」こと。そして機能低下するまでは、普通に在宅生活を送っていたケースがほとんどです。逆に言えば、出来なくなってしまった部分(機能)が再び出来るようになれば、もしかしたら、また自宅で生活出来るようになるかもしれないのです。

施設を利用されている方の中には、「また家に帰りたい」と話され、一所懸命にリハビリされる方が少なくありません。また、施設という集団生活ではなく、自宅にて一人で自由気ままに暮らしたいと願う方もいらっしゃいます。やはり、もともとの生活基盤である自宅に帰りたいと思う気持ちは、当然なのかもしれません。

本当に暮らしたい場所はどこか

では国が進める通り、在宅復帰・在宅支援は正しいのでしょうか。考えてみれば、一概にそうとは言えない部分も現実には存在しています。

一例として、「家に帰ったらひとりぼっちだけど、ここ(施設)なら24時間365日誰かと一緒にいれる」「もし体調を崩して倒れた時、家庭だと不安だ」という利用者や「いくら元気になっても面倒を見続けるのは難しい」という介護者の声も少なくありません。やはり、全ての人が自宅で暮らすことを望んでいるわけではないというのが現状です。

当たり前ですが、自宅で暮らすことを望む方と、施設で余生を送りたいと望む方両方の意見があります。人それぞれ、望むものは異なるのです。

在宅復帰・在宅支援を進める老健の役割

しかし冒頭で述べたように、今後、在宅復帰・在宅支援に舵取りを進める老健が多くなることは必至です。そうなると、老健は在宅復帰を求める利用者以外のニーズに沿わなくなってしまうのでしょうか。

実際、すでに在宅復帰を強化している老健には、例えば「いずれ在宅復帰することを条件」として利用しなくてはならない施設もあります。しかし、ただ全てを一緒くたに「在宅復帰しなくてはならない」と決めているわけではありません。在宅復帰する利用者自身はもとより、その方を支援する家族やサービスなど、ほとんどの施設でそれら全ての状態を見ながら在宅復帰を進めるよう取り組んでいます。

また、老健には施設医師の配置のほか、看護師も他の入所系施設より(利用者一人あたり)多く配置されることが定められています。そういう意味では、医療依存度の高い利用者が入所することも可能でしょう。そして、老健の加算の中には看取り介護の加算も定められています。老健だからといって、何がなんでも在宅復帰しなくてはならないというわけではありません。利用者それぞれのニーズや状態に合わせて、長期利用することも可能です。

まとめ

在宅復帰・在宅支援は、利用者にとって必ずしも望んでいるニーズとは限りません。中には、ずっと施設にいたいと思う方々もいらっしゃいます。

もちろん「自宅に帰りたい」と願う方は、老健でリハビリや生活支援を行い、再び自宅での生活に戻ることが喜ばしいゴールになるでしょう。利用者それぞれのニーズに沿った形で柔軟に対応することが、今後も老健に求められる役割ではないでしょうか。そして同時に、そこで働く職員も、自分の働く老健がどこに舵取りをするのかを明確にしながら働いていくことが、働く意義や目標になっていくはずです。

平成30年度介護報酬改定に関する審議報告 厚生労働省

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