障がいを抱えて生きる方やその家族の生活を支える相談支援専門員。
しかし、「支える」と言っても相談支援専門員がどんな業務をしていて、障がい福祉の現場でどのような役割を担っているのか、具体的にイメージできる方は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、相談支援専門員の仕事内容や役割、なるために必要な資格について詳しく解説します。
相談支援専門員とは?
相談支援専門員は、障がいを抱える方本人やその家族が障害福祉サービスを活用できるように事業所と繋げたり、生活全般に対する悩みの相談を受けて情報提供や助言を行ったりする職業です。
「障がい」と一括りに言っても、その症状や状況は人それぞれであり、どんな支援サービスが適しているか、どんな支援が必要になるのかをご利用者やその家族が判断するのは困難です。
そのような時に、相談支援専門員が障害福祉サービスに関することをはじめ、住まいや地域生活といった暮らしに関することなど、さまざまな相談に応じ、ご利用者とその家族が安心して生活できるようにサポートを行います。
障がいを抱える方と事業所を繋ぐ役割
相談支援専門員は障がいを抱える方が自立した日常生活、社会生活を営むことができるように、ベストな支援ができる事業所を繋ぐ役割を担っています。
また、障がい者支援事業所以外にも、地域生活への移行・定着に向けて医療機関や学校をつないだり、住宅入居等支援事業や成年後見制度利用支援事業に関する支援を行うために自治体と連絡を取ったりすることもあり、ご利用者の状況に合わせてフレキシブルな対応が求められます。
相談支援専門員の具体的な仕事内容って?
相談支援専門員の仕事内容は大きく分けて下記の4つに分類することができます。
ここからはそれぞれの業務内容を具体的に説明していきます。
基本相談支援
「基本相談支援」は、障がいを抱える方やその家族の困りごとをヒアリングし、その悩みに合わせて福祉サービスの情報を提供したり、支援内容を提案したりする業務です。相談支援専門員のメインとなる業務であり、その他の業務である「地域相談支援」「計画相談支援」「障害児相談支援」の中核となる大切な役割も持っています。
事業所に相談に来るご利用者の多くは、自分自身がどんな支援を必要としているのかを上手く言葉にできないケースがほとんどです。また、支援内容もご利用者の状況によって大きく変わってくるため、「基本相談支援」には丁寧にヒアリングする"聞く力"と障害福祉サービスに関する幅広い知識が必要になります。
地域相談支援
「地域相談支援」は、障がいを抱える方が施設や病院を出て自立を目指す際に行う「地域移行相談支援」と、既に自立を目指して生活している方に対する「地域定着相談支援」の2つに分けられます。
「地域移行相談支援」は、住まいの確保から入居までの支援、外出同行、福祉サービスの体験利用の実施など、ご利用者の新たなスタートを支える業務です。
「地域定着相談支援」は、ご利用者に生活上のトラブル等が生じた際に緊急訪問や相談を行うなど、24時間連絡体制の確保がメインになります。
計画相談支援
「計画相談支援」には、障がいを抱える方が障害福祉サービスを受けられるようにサービス等利用計画案を作成する「サービス利用支援」と、既にサービスを受けている方に対してモニタリングや見直しを行う「継続サービス利用支援」の2つがあります。
「サービス利用支援」は、相談支援専門員がご利用者にヒアリングを行った上で、自治体から指定を受けた指定特定相談支援事業者を結び、サービス等利用計画案を作成する業務です。また、計画案を実施する際のご利用者への説明なども「サービス利用支援」の業務に含まれます。
一方、「継続サービス利用支援」はサービスを提供された後、ご利用者の生活に問題が生じていないか、支援内容がマッチしているかなどを2ヶ月に1回モニタリングします。また、ご利用者や家族の生活で新たな悩みや不安が生じた場合、相談に乗ったり、必要に応じて計画案を修正したりなども「継続サービス利用支援」の業務に含まれます。
障害児相談支援
「障害児相談支援」は、障がいを抱える子どもやその家族が適切な支援を受けられるよう、相談に乗ったり、障害児支援利用計画案を作成したりする業務です。細かく分けると「障害児支援利用援助」と「継続障害児支援利用援助」の2つの業務に分類することができます。
「障害児支援利用援助」は、障がいを抱える子どもやその家族が放課後等デイサービスなどの通所支援サービスを希望した際に、「障害児支援利用計画案」を作成することが主な業務となります。
一方、「継続障害児支援利用援助」は既に通所支援サービスを受けているご利用者に対してモニタリングを行い、支援が適切に受けられているか、計画案がマッチしているかなどを確認し、必要に応じて修正を行います。
相談支援専門員の1日のスケジュール例
相談支援専門員はどんな1日を過ごしているのでしょうか?ここでは一般相談支援事業所で働く相談支援専門員のスケジュール例を見てみましょう。
8:30 | 業務開始:その日の訪問先の確認と資料整理 |
9:30 | 1件目の訪問:ご利用者とそのご家族に対するヒアリング |
11:15 | 2件目の訪問:ご利用者の定期モニタリング |
12:00 | お昼休憩 |
13:00 | サービス担当者会議へ参加:現状のサービス状況や今後のプランなどについて話し合い |
15:00 | デスクワーク:計画案の作成やデータ入力など |
17:30 | 退勤 |
相談支援専門員になるには?必要な資格・要件を解説
相談支援専門員になるには、各都道府県が実施している相談支援従事者初任者研修を修了する必要があります。
相談支援従事者初任者研修は、一定の資格や実務経験などの条件を満たせば受講可能です。そのため、相談支援専門員は着実に経験を重ねればどなたでも挑戦しやすい職種と言えます。
相談支援従事者初任者研修を受講できるようになる要件は、大きく分けると下記の3つに分けることができます。
ここからは、上記3つのケースについてどんな条件を満たせば相談支援従事者初任者研修を受講できるのか、詳しく解説します。
相談支援業務に携わっている場合
相談支援業務とは、身体や心に障がいを抱える方の生活について相談に応じ、指導やアドバイス等を行う業務です。相談支援業務に携わっている方は、携わっていた時期と事業所によって相談支援従事者初任者研修を受講できる条件が異なります。
介護等の業務に携わっている場合
下記のような事業所で、身体や心に障がいを抱える方や高齢者の介護に携わっている場合、通算10年以上の実務経験があれば相談支援従事者初任者研修を受講できるようになります。
対象となる事業所は以下の通りです。
医療・福祉系の国家資格等を取得し業務に携わっている場合
医療・福祉に関わる国家資格を取得し、実際に業務に携わっている方も相談支援従事者初任者研修を受講することができます。なお、受講可能になる条件は、保持している資格によって変わります。
相談支援専門員は無資格でもチャレンジできる?
「無資格」を国家資格を持っていないことと定義すると、相談支援専門員は無資格でもチャレンジすることのできる職種です。
前述の通り、特定の事業所で相談支援業務に携わっており、5年以上の実務経験を積めば、相談支援従事者初任者研修を受講することができます。
しかし、受講可能になる条件は都道府県によって詳しい受講対象者やプログラムに違いがあります。前述したような実務経験の規定の他、事業所からの推薦が必要なケースもあるため事前に確認しておきましょう。
相談支援専門員が活躍できる職場・就職先
相談支援専門員が活躍できる職場(勤務先)は地域の相談支援事業所や基幹相談支援センターです。
相談支援事業所には一般相談支援事業所、特定相談支援事業所、障害児相談支援事業所の3つの種類があり、それぞれで相談支援の内容が異なります。ここからは、基幹相談支援センターを含む4つの勤務先について、業務内容を解説していきます。
一般相談支援事業所
「一般相談支援事業所」とは、都道府県が指定する相談支援事業所で、障がいを抱える方からの相談に応じる「基本相談支援」の他、病院や施設を出てその地域で暮らす際の「地域移行支援」や、長く暮らし続けるための「地域定着支援」を行っています。
長期的に入院生活を送っていたり、施設で生活をしていた方が、自立をすることは簡単なことではありません。精神的に大きなストレスがかかったり、不安から上手く地域に馴染めなかったり、最悪の場合症状が悪化してしまうケースもあります。
その際、「一般相談支援事業所」では、ご利用者やその家族からの相談に対応するだけでなく、障害福祉サービスの体験利用や宿泊体験などを行って、少しずつ地域での生活に馴染んでもらうための支援を行います。 そのため、「入院生活を送っていたが、症状が良くなってきたので自立したい」等の目的で事業所に相談に来るご利用者が多いです。
特定相談支援事業所
「特定相談支援事業所」とは、市町村が指定する相談支援事業所で、障がいを抱える方からの相談に応じる「基本相談支援」だけでなく、「サービス利用支援」や「継続サービス利用支援」を行っています。
「一般相談支援事業所」の業務との大きな違いである「サービス利用支援」や「継続サービス利用支援」は、前述の通り障害福祉サービスを利用するために必要となるサービス等利用計画の作成やモニタリングを指します。
そのため、「これから新たに障害福祉サービスを利用したい」等の目的で事業所に相談に来るご利用者が多いです。
障害児相談支援事業所
「障害児相談支援事業所」とは、市町村が指定する相談支援事業所で、障がいを抱える子どもとその保護者が支援を受けられるようサポートする「障害児支援利用援助」や支援内容を定期的にモニタリングする「継続障害児支援利用援助」を行っています。
「一般相談支援事業所」や「特定相談支援事業所」との大きな違いは、対象者が障がいを抱える0歳~18歳までの子どもに限られている点です。
そのため、「子どもに障がいが見つかったため支援を受けたい」「継続している支援内容を見直したい」等の目的で相談に来られる方が多くなっています。
基幹相談支援センター
「基幹相談支援センター」は、その地域における総合的な相談支援事業を行う"要"のような役割を担っています。
主な業務としては、どの事業所に相談したら良いのか迷っている方の対応や適切な事業所への連携、他の相談支援事業所で対応できなかった利用者への相談支援、相談支援専門員の人材育成等です。
その地域の相談支援事業をコントロールする役割も担っているため、基幹相談支援センターで働くには、相談支援専門員としてより専門的なスキルを身に付ける必要があります。
相談支援専門員の仕事探しのポイント3選
ここからは、相談支援専門員として就職したい方や転職を考えている方向けに、求人の中でチェックしておきたいポイント3選をご紹介していきます。
①業務量と収入が見合っているか
相談支援専門員として転職・就職する上で一番おさえておきたいポイントは、業務量と収入が見合っているかです。
厚生労働省の調査では、相談支援専門員が該当する「その他の社会福祉専門職業従事者」の平均年収は403万円となっています。同じ福祉業界の職種である施設介護員の年収が約353万円、 ホームヘルパーの年収が約364万円のため、同業界の中では比較的年収の高い職種であると言えます。
しかし、年収の額面だけで事業所を選んでしまうと、抱えるご利用者の人数が多かったり、職員の退職が続いていたり等が原因で1人に業務が偏ってしまい、結果的に業務量と収入が見合わなくなるケースも多々あります。
とりわけ、障がい福祉業界は利用者数の増加等が原因で慢性的に人手不足が続いているため、求人を見る際は額面だけではなく、平均の残業時間や離職率等を一緒に確認しておきましょう。
②職員同士の雰囲気
続いて確認しておきたいポイントは、職員同士の雰囲気です。
前述の通り、相談支援専門員は人対人でコミュニケーションを取り続ける職業です。それは対ご利用者やその家族だけでなく、事業所内の異業種の職員や同僚も同様です。
しかし、人は全員が同じ価値観を持っているわけではないため、同じ事業所に勤めていても連携方法が違ったり、言葉のニュアンスが違ったりですれ違いが生じ、人間関係に亀裂が入ってしまうこともあります。
せっかく相談支援専門員として勤務することが決まっても、職員同士の雰囲気が悪く、キャリアを続けられなくなることは避けたいところです。
そのため、求人を見る際は写真や職場の雰囲気などをよくチェックしておきましょう。また、あまり求人内に書かれていなければ事業所見学に行ったり、面接の時に聞いてみて本当に自分に合う事業所かどうかをチェックしておきましょう。
③スキルアップを支援・評価してくれるか
続いて確認しておきたいポイントは、スキルアップやキャリアアップを支援・評価してくれるかです。
相談支援専門員は、豊富な知識を身に付け、経験を積むことによって支援の幅が広がる仕事です。ご利用者の状況によっては、障がい福祉だけでなく、医療・介護などの専門知識が必要になるケースもあります。
そのため、相談支援専門員の方の中には、キャリアをスタートした後に社会福祉士や精神保健福祉士、介護福祉士の資格を取った方などが多数います。
しかし、資格を取得する際はどうしてもお金と時間がかかります。業務量が多すぎる事業所を選んでしまうと、自己成長のための時間を確保することができなくなり、相談支援専門員としての成長を感じられず、キャリアを続ける意味を見出せなくなってしまうケースもあります。
そのため、求人を見る際は資格取得支援制度の有無や資格取得後の手当などを確認しておきましょう。
まとめ
今回は相談支援専門員とはどんな職業で、その役割、なるために必要な資格について解説しました。
障がいを抱える方の人生設計をサポートする相談支援専門員は、責任が重い仕事ではありますが同時にやりがいや社会貢献度の高い職業であると言えます。
障がいを抱える方の人口はこの10年で増加しており、障がい者支援事業のニーズも年々高まっています。非常に将来性のある仕事のため、「障がい者支援に関わりたい」「困っている人を助けたい」という方は、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか?
監修者 カイゴジョブ編集部
介護業界でがんばる皆様、転職を検討している皆様を全力応援!お悩みQ&Aや転職ノウハウなど、お役立ち情報を発信します。