障害を抱える方の就職活動やスキルアップを支援する職業指導員。
仕事に就きたい方と企業を結ぶ大切な仕事であり、その需要は年々高まっています。
そこで今回は、職業指導員とはどんな職業で具体的にどんな仕事をしているのか、また勤務先や従事するために必要な資格について詳しく解説していきます。
職業指導員とは?
職業指導員とは、障害を抱える方の就職活動や、就職するために必要な知識や技術を身につけるためのサポートを行う職業です。
一般的に「就職活動のサポート」というと、就職先を紹介したり、企業と求職者の間を結び付けたりする仕事を想像するかもしれませんが、職業指導員の業務は少し違いがあります。
職業指導員には利用者と企業を結び付ける役割もありますが、"就労"そのものに対して利用者に慣れてもらうために指導・支援する役割もあります。
利用者がどんな症状を抱えているのか、どんなことが得意で、何を就労に生かせそうなのかを見抜き、職業訓練から就労した後のフォローまで丁寧に寄り添っていくことが求められる仕事です。
職業指導員の具体的な仕事内容は?
職業指導員の主な仕事は利用者の就労をサポートすることですが、就労した後のフォローや家族のサポートなども職業指導員の業務に含まれています。
勤務する事業所により職業指導員の仕事内容は異なりますが、おおまかに下記の5つに分類できます。
ここでは、それぞれの業務についてどんなことをしているのか細かく説明していきます。
職業訓練
まず、利用者が抱える症状、適性、好みを把握して職業訓練を行います。職業訓練の内容はパソコン作業・工場のライン作業・調理補助・清掃・清掃など様々あり、利用者のどんな個性が就労に生かせそうか、しっかり見極めることが重要です。
また、職業訓練は複数人の利用者に対して職業指導員1人が付き添い、チームとなって作業に向かうケースが多いです。
作業中は知識面・技術面で指導することはもちろんですが、利用者一人ひとりに目を配り、体調面・メンタル面での不調はないか声をかけながら行います。
利用者が抱える障害は様々です。言葉選びやほんの些細な態度の違いが思わぬトラブルに繋がってしまうこともあるため、コミュニケーションを重ねて丁寧にフォローしていくことが求められます。
利用者の就職サポート
利用者の就職サポートは基本的に施設内で行います。履歴書など応募書類の作成サポートや面接指導のほか、企業の面接へ同行することもあります。
また、就職先企業とのやりとりや調整の他、障害がある方の職業実習を受け入れてくれる企業を探すことも職業指導員の大事な業務です。
障害者雇用の経験が少ない企業とやりとりをすることもあるため、職業指導員が間に入って説明を行い、就労移行支援事業所の役割や障害に対する理解を深めてもらうことから始まるケースもあります。
就職後のフォロー
晴れて利用者の就労が決まった後も職業指導員の業務は続きます。定期的に就労先を訪問し、利用者がしっかり業務に取り組めているか、就労先とのコミュニケーションが上手くいっているかなどを確認します。
うまく就労継続に進むこともあれば、利用者が不安や不満を抱えるケースもあります。こまめに面談を行ってフォローしつつ、利用者と一緒に問題に向き合っていくことが必要になります。
利用者やその家族の相談対応
職業指導員は必要に応じて利用者の家族のケアも行う場合があります。とくに、利用者が家族以外に心を開かない場合や家族の方が就労に対して不安を抱えている場合は、家族や保護者と密にコミュニケーションを取ることが大切です。
利用者の生活支援
事業所によっては、利用者の生活支援も職業指導員が行うことがあります。生活支援とは、食事や排泄、入浴の介助に始まり、健康管理や生活全般において困っていることがあれば相談に乗るなども業務の範囲に含まれます。
「就労支援員」や「生活支援員」との違いは何?
職業指導員と同じく、障害を持つ方のサポートをする職種としてよく混同されがちな仕事が就労支援員と生活支援員です。
しかし、どちらも職業指導員の業務とは決定的に異なるポイントがあります。ここからは、それぞれの職種において、何が職業指導員と異なるのかを詳細に説明していきます。
就労支援員との違いは支援対象者の範囲
就労支援員と職業指導員の決定的な違いは、支援対象者の範囲です。就労支援員は、障害を持つ方だけなく生活保護者や一人で子どもを育てなければいけないシングルマザーなど、就労が困難な人を幅広くサポートします。一方、職業指導員の支援対象は障害を抱える方にフォーカスしています。
どちらも"就労を支援する"という点では変わりませんが、就労支援員は障害者支援だけでなく生活困窮者支援や児童福祉などの幅広い知識が必要になる、という点で違いがあります。
生活支援員との違いは業務内容
生活支援員はその名の通り、障害を持つ方の生活面をサポートする職業です。生活面のサポートとは、食事や排泄などの介助のほか、利用者の健康管理や困りごとの相談対応などを指します。一方、職業指導員は障害を持つ方の就労・就職支援が主な業務になります。
しかし、職業指導員が生活支援を行うケースや、生活支援員が就労の相談に乗ることなどもあるようで、業務領域をはっきりと分けていない事業所も存在しているようです。
職業指導員の1日のスケジュール
職業指導員はどんな1日を過ごしているのでしょうか?ここでは就労移行支援事業所で働く就労支援員のスケジュール例を見てみましょう。
8:00 | 出勤・朝礼・スタッフとの連絡事項共有 |
8:30 | 利用者の送迎・職業訓練先へ |
9:00 | 職業訓練に同行:利用者と一緒に作業 |
12:00 | お昼休憩 |
13:00 | 午後の職業訓練 |
15:00 | 事業所に戻って利用者の作業内容確認 |
15:30 | 利用者の送迎 |
16:00 | 事務作業・終業ミーティング |
17:00 | 退勤 |
職業指導員になるには?
職業指導員になるために必要な資格や経験、技能はありません。職業指導員を募集している求人に応募し、選考に合格して採用となれば職業指導員として働くことができます。無資格・未経験関係なく、どなたでもチャレンジできる職業です。
しかし、事業所によっては何かしらの資格を必須としている場合も少なくありません。中には、障害を持つ方のサポートを行うため介護福祉士や介護職員初任者研修の資格保持を求めたり、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を応募資格としたり、利用者とのコミュニケーションに手話や点字ができることを必須としたりしている事業所もあります。
また、近年ではIT・WEBに特化した就労移行支援事業所も増えており、WordやExcelなど基礎以上のパソコンスキルが求められるケースもあります。
職業指導員の業務で役立つ資格3選
ここでは、職業指導員としての就職・転職にとくに役立つ資格を3つ紹介していきます。
また、各資格を取得するためにはどんな道に進めばいいのか、業務のどの場面で役立つのかなども詳しく説明していきます。
介護福祉士
介護福祉士は、加齢や病気により身体が不自由な高齢者および、身体や精神に障害を抱える方の身辺の介護から毎日の健康管理まであらゆるサポートやケアを行う、介護業界唯一の国家資格です。
介護福祉に関わる様々な事業所で必要な人材とされており、主な勤務先は有料老人ホーム、グループホーム、介護老人福祉施設などの入所型の介護施設の他、訪問介護やデイサービス(通所介護)などの通所型の介護サービス事業所、障害者・障害児向けの支援施設などです。
なお、介護福祉士の資格を取得するには「介護福祉士国家試験」に合格する必要がありますが、誰でも国家試験にチャレンジできるわけではありません。
介護福祉士国家試験には受験資格があり、下記3つのうちいずれかのルートをたどって受験資格を得る必要があります。
※上記の他、EPA介護福祉士候補者(インドネシア人、フィリピン人、ベトナム人)が対象となる「経済連携協定(EPA)ルート」があります。
2022年に行われた第34回介護福祉士国家試験の合格率は72.3%と言われており、数ある国家資格の中では合格率が高い方と言われています。
前述の通り、事業所によっては職業指導員も利用者の生活支援を行う場面があるため、介護福祉士としての知識や技能を生かすことで、専門的なケアやサポートを行えます。
社会福祉士
社会福祉士は病気や障害を抱える方や生活困窮者、ひとり親の家庭など、日常生活において困難を抱える方の相談・支援を行えるスキルがあると証明できる国家資格です。
支援対象が子どもから高齢者、障害がある方までと幅広いこともあり、社会福祉士の勤務先は多岐にわたります。 とくに多い勤務先としては、病院などの医療機関や介護老人福祉施設、居宅介護支援事業所などが挙げられます。(※出典:社会福祉士就労状況調査実施結果報告書 (令和2年度)|公益財団法人社会福祉振興・試験センター)
また、介護福祉士と同様に、社会福祉士も国家試験を受験するための受験資格が必要であり、
上記いずれかのルートをたどる必要があります。
職業指導員の相談業務は、利用者の生活面についても深く理解した上でアドバイスや支援を行う必要があります。その際、日常生活において困難を抱える方の相談・支援を行える社会福祉士の知識が非常に役立ちます。
精神保健福祉士
精神保健福祉士とは、心の病気を抱えた方の日常生活における相談や生活支援、助言、訓練、就職などの社会参加の手助け、環境調整などを行える国家資格です。
精神保健福祉士も支援の対象や業務の幅が広い分勤務先が多岐にわたり、医療機関では総合病院の精神科、精神科・心療内科クリニックなど、行政機関では自治体、保健所、精神保健福祉センターなどがあげられます。その他にも障害福祉サービス事業所、児童養護施設、高齢者福祉施設などで勤務するパターンもあります。
精神保健福祉士も同様に国家試験を受けるための受験資格が必要です。受験資格を得るためのルートは様々ありますが、図のうちいずれかのルートをたどる必要があります。
職業指導員の支援対象者の中には、精神面の障害で日常生活や社会参加に困難を抱えているケースも多くあります。利用者の境遇を理解し、適切な支援・指導を行う上で精神保健福祉士の知識や技能が非常に役立ちます。
職業指導員が活躍できる職場・就職先
職業指導員の勤務先として多いのが、就労移行支援事業所や就労継続支援事業所A型もしくはB型です。なかでも、就労継続支援事業所B型が最も就職先として割合が高く、職業指導員の7割近くが勤務しています。
※出典:「令和3年社会福祉施設等調査の概況」障害福祉サービス等事業所・障害児通所支援等事業所の状況|厚生労働省ここからは、各事業所にはどんな特徴があり、どんな支援を行っているのかを詳しく説明していきます。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般企業で働ける65歳未満の障害者を対象として就労支援・職業訓練を行う事業所です。
就労移行支援事業所での職業指導員の業務は、就職に向けた応募書類作成のサポートや面接指導、勤務先候補の選定、提案、職業訓練などがメインとなります。また、就職後は定期的な職場訪問と面談を行い、定着状況の確認やフォローを行います。
就労継続支援事業所A型
就労継続支援事業所A型は、一般企業での就労が困難な障害者に対して就労訓練や就労機会の提供を行う事業所です。原則18歳以上65歳未満の障害のある方が支援の対象となり、特別支援学校を卒業し就労経験が無い方でも利用することができます。一般企業に勤めることが難しい方が対象となるため、就労移行支援事業所と比べて病気や障害の度合いが重い方が多い傾向にあります。
そのため、職業指導員の業務内容は、利用者と一緒に職業訓練を行って指導にあたることがメインとなります。また、利用者一人ひとりに目を配り、支援を行うことが重要になります。
就労継続支援事業所B型
就労継続支援事業所B型もA型同様、一般企業での就労が困難な障害者に対して就労訓練や就労機会の提供を行う事業所です。B型の場合、利用者の年齢制限がなく、過去に就労移行支援事業者などを利用して就労面の課題が把握されている方や、障害基礎年金1級を受給している方などが対象となります。A型と比較するとB型の方が病気や障害の度合いが重い方が多い傾向にあります。
そのため、職業指導員の業務内容は、職業訓練の同行や指導の他に、利用者の介助や生活支援、健康管理なども行う場合があります。
就労継続支援事業所A型とB型の違いとは?
就労継続支援A型とB型の違いは大きく3つあります。
1つ目は、雇用形態の有無です。就労継続支援A型の場合、利用者が企業と雇用契約を結んで就労しますが、B型の場合は事業所を通して特定の業務のみを請け負う形になるため、雇用契約が発生しません。
2つ目は上記の雇用契約とも関連していますが、収入の形態が異なります。A型の場合は雇用契約が発生しているため、必ず最低賃金以上の給与が発生します。しかし、B型は雇用契約がないため、納品された物に対して「工賃」として支払われ、最低賃金よりも低い場合が多いです。
3つ目は前述の通り、支援の対象が異なります。A型の場合は原則18歳以上65歳未満の障害のある方が対象となりますが、B型の場合は年齢の制限がなく、以下のような方が支援対象となります。
ただし、自治体によって若干条件が変わったり、事業所の方針によって柔軟に対応しているケースもあるようです。
職業指導員の仕事に将来性はある?
職業指導員は将来性のある仕事です。
厚生労働省の調査では、何らかの障害を持つ方の人口は2006年から2018年の12年間で655.9万人から936.6万人と、約300万人近く増加していると明らかにされています。 ※出典:障害者数の推移|厚生労働省(平成30年度)背景には、医療の発達により平均寿命は延びたものの、障害を抱えた高齢者も増えていることや、メディアによる障害に対する認識の変化などが要因と考えられています。
また、職業指導員の主な勤務先である就労移行支援事業所、就労継続支援事業所A型・B型も年々増加傾向にあります。
※出典:障害福祉サービス等における主なサービス種類別に見た総費用額の推移(各年度合計)|厚生労働省就労移行支援事業所、就労継続支援事業所A型・B型では、職業指導員を1名以上配置しなければならないという義務があるため、障害を抱える方の人口が増え、事業所が増えれば増えるほど職業指導員の求人も増えていくと考えて良いでしょう。
職業指導員の仕事探しのポイント3選
ここからは、職業指導員として就職したい方や転職を考えている方向けに、求人の中でチェックしておきたいポイント3選をご紹介していきます。
①自分が持っている資格を生かせるか
1つ目のポイントは、自分が持っている資格を生かせるかという点です。転職活動をする上で、自分が持つ資格が生かせるか応募資格欄を確認することは当たり前のことと考えている方がほとんどかと思いますが、職業指導員の場合はさらによく確認しておきたいポイントがあります。
それは事業所の特徴と自分が持つ資格の相性です。前述の通り、職業指導員の主な勤務先である就労移行支援事業所や就労継続支援事業所はそれぞれで業務内容に違いがあります。精神的な障害を抱える利用者が多い事業所であれば精神保健福祉士などの資格が役立ち、利用者の介助や生活支援も職業指導員が行う事業所であれば介護福祉士の資格が役立ちます。
近年では、職業訓練の方針にも特徴がある事業所が増えているため、自身が持つ資格がどのように生かせるのか求人内容をしっかり確認してイメージしておくことが大切です。もし、求人の情報が少なく事業所のイメージがわからない時は、応募の際に施設見学を申し込むのもおすすめです。
②経営主体
2つ目のポイントは、その事業所の経営主体です。
平成29年に厚生労働省が行った障害福祉サービス等の経営実態調査によると、常勤の職業指導員の年収平均はどのサービスにおいても社会福祉法人が一番高くなっています。
※出典:平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果|厚生労働省(平成29年度)非常勤にはここまで大きな差は見られませんが、常勤の職業指導員として就職・転職を考えている方は求人を見る際に、事業所の経営主体もしっかり確認しておきましょう。
③困った時に相談できる機会があるか
3つ目のポイントは、困った時に相談できる機会があるかです。
職業指導員は、就職に困っている人を助ける非常に有意義な仕事ですが、楽しいことばかりではありません。利用者の中には、障害によってコミュニケーションをうまく取れなかったり、感情的になって暴言を吐いたり、手をあげたりする方がいることも事実です。また、職業訓練中にトラブルに発展するケースも少なくありません。
そんな時に相談できる同僚や先輩がいるかどうかは、職業指導員としてキャリアを重ねていく上で重要なポイントです。とくに未経験からチャレンジする方は、研修体制やサポート体制の有無をしっかりチェックしておきましょう。
まとめ
今回は職業指導員とはどんな職業で、具体的にどんな仕事をしているのか、また勤務先や従事するために必要な資格について紹介しました。
無資格・未経験からでも挑戦できる職業指導員ですが、将来性があり、社会の役に立てる素敵な仕事です。
また、職業訓練はパソコン作業や清掃などの業務以外に、造園、木工、印刷など様々な業務があるため、ご自身の特技が生かせる場面もあるかもしれません。
教えることが好きな方、障害者福祉や支援に興味がある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
監修者 カイゴジョブ編集部
介護業界でがんばる皆様、転職を検討している皆様を全力応援!お悩みQ&Aや転職ノウハウなど、お役立ち情報を発信します。