保護犬・保護猫と暮らす障がい者グループホーム事業で、社会課題の解決に貢献 -ペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」-

保護犬・保護猫と暮らす障がい者グループホーム事業で、社会課題の解決に貢献   -ペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」-

障がい者と保護犬・保護猫が共に暮らすというペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」。事業を展開するアニスピホールディングスによると、参画法人による運営も含め、全国で170か所以上(※1)の事業所が誕生し、入居者と保護犬・保護猫の生活の場となっているそうです。

独創的な障がい福祉サービスの成り立ちや、入居者とペットが共生することで生まれる効果などについて、アニスピホールディングス 代表取締役の藤田英明さん、同社でサービス管理責任者を統括する櫻井大悟さんに伺いました。

※1 2020年3月1日現在

入居者とペットが「共生」するグループホームを事業化

――「ペット共生型障がい者グループホーム」というアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

「障がい者が安心して暮らせる住まいを作りたい」「保護犬・保護猫の新たな居場所を作りたい」この2つの思いが掛け合わさって生まれました。

――その思いについて、それぞれ詳しく伺えますか。

現在の日本では、障がい者を地域で受け入れる態勢がまだまだ足りていません。特に精神障がい者の方は日本に約400万人(※2)おり、その内240万人(※3)はグループホームでの生活が可能と言われています。しかし、その需要に対してグループホーム自体の数は全体で8千程度しかありません。障がい者が地域社会と関わっていくためには安心して暮らせる住まいが必要である、という思いから、グループホーム事業を展開する必要性を感じていました。

また、グループホームの設立は、増え続ける医療費の抑制や、空き家問題といった社会的課題の解決にもつながります。そして何より、障がい者の方自身が社会に出て働くことで、制度に支えられる側から社会を支える側になれる、自立につながるという点で非常に意義があることだと考えています。

戸建てリフォーム型のグループホーム立ち上げでは、空き家を活用することも多い(提供:株式会社アニスピホールディングス)

※2 参考:厚生労働省「患者調査」(2017年度)

※3 出典:一般社団法人 日本グループホーム学会調査研究会「グループホームを利用する障害者の生活実態に関する調査研究」(2018年度)

――そこに、どのように保護犬・保護猫が関わってくるのでしょうか。

日本で年間に殺処分されるペットは、行政主導で約4万頭(※4)、民間業者が請け負っているもので推計30万頭とも言われています。そのような現状から少しでも保護犬、保護猫を救いたいという思いが常々ありました。グループホームがペットの新たな居場所となれば、保護犬・保護猫の命がその分救われます。

※4 参考:動物愛護管理行政事務提要 令和元年度版

――そこから「グループホームでペットが暮らす」という発想につながるのですね。

ただ、両者をかけ合わせた理由はそれだけではありません。日本でも「動物介在活動」「動物介在療法」などが徐々に広まりつつありますが、一定の時間だけの触れ合いよりも、常にペットが寄り添ってくれる生活の方が、人生に張り合いが生まれます。また、初対面の人同士でも、関係づくりのきっかけになってくれるのがペットという存在です。グループホームの中で暮らすペットが、入居者、スタッフ、地域の潤滑油のような存在となってくれることを期待しています。

そのような考えから、障がい者の方の住まい、そして保護犬・保護猫の新たな役割や居場所として「ペット共生型障がい者グループホーム」を構想し、事業化しています。

――ペットがそばにいることで、入居者にはどのような変化があるのでしょうか。

「仕事から帰って来てペットが出迎えてくれると癒される」「ペットがそばにいてくれて生活に張り合いが生まれる」「ペットの世話をするために規則正しい生活を送るようになった」「散歩がきっかけで地域の人と触れ合うきっかけが生まれた」などポジティブな反応は、多くの入居者の方からいただいています。

ご自宅の事情などでこれまでペットが飼えなかった障がい者の方が、犬や猫と暮らしたくて入居されるケースもあります。そのような方にとって、ペットがグループホームにいることの効果はとても大きいです。中には自分でペットを飼うことを目標にして、自立支援に取り組んでいる方もいらっしゃいます。

また、入居者とペットが触れ合う中で、ただ可愛がるだけではなく食事やトイレ清掃、散歩など飼い主のように世話もしています。入居者が能動的にペットの世話に関わることは、自立感や生きがいを生み出すことにも繋がると考えています。

ペットと触れ合う入居者からは、自然と笑顔がこぼれる(提供:株式会社アニスピホールディングス)

――ペットの存在が、入居者にとってプラスに働いているのですね。

人と直接コミュニケーションを取ることが苦手な方でも、ペットを介することで良好なコミュニケーションが取れるようになった事例もあります。そういった点は期待以上ですね。とはいえ、中にはペットとの同居にそこまで関心が高くない方もいらっしゃいます。そのような方は適度な距離感を保ってペットと付き合っています。

――グループホームのサービス提供体制について、お伺いできますか。

「わおん」は介護サービス包括型でサービスを提供しています。障がい等級が1~3と比較的軽度の方は戸建てリフォーム型に、障がい等級が重い方はバリアフリー対応が完備されている新築のグループホームに入居いただけるように配慮しています。

――グループホームでは精神障がいの方の入居が多いのでしょうか。

精神障がい者の方向けのグループホームが少ないことから入居希望者は多いですが、精神・知的・身体の三障がいいずれの方でも入居可能です。

例えば知的障がいの人に対して、精神障がいの人がお金の使い方をアドバイスしたり、逆に買い物に行きづらい精神障がいの方の代わりに知的障がいの方が買い物に行ってくれるなど、支え合いの関係が成り立ちやすくなります。なので、障がいの種類に関わらずご入居いただく方針(※5)にしています。

※5 直営店舗の場合。施設によって異なる場合がある

――ペットとの共生、障がいを持っている方同士での共生。「共生」の実現に向けて取り組んでいるのですね。

共生の在り方について「正解」はありませんが、考え方や背景が違う人を受け入れる社会的包摂の概念が基本だと思っていますし、そういった事業に価値があると当社では考えています。

動物愛護センターなどから引き取られた元保護猫たち。本社で体調管理などを行ったのち、新しい住まいに迎え入れられる

入居者自身のペットも、一緒に暮らせる

――ご自身のペットと一緒にグループホームに入居できるという点も、「わおん」が選ばれるポイントになっていますか?

そうですね。ご自身のペットと共に暮らすことで、ペットの面倒を見る責任感も継続しますし、自分らしさの維持にもつながります。そのような方がペットと一緒に暮らせる環境を提供できている点は良いことだと感じています。

また、高齢者や障がい者が施設等に入る場合、それまで飼っていたペットは誰かに預ける・譲り渡すか、やむを得ず動物愛護センターなどに引き取ってもらうこともありますが、新たな保護犬・保護猫が増えてしまうことを防ぎたいという思いもあります。

――入居者が自分のペットをグループホームで飼う際のルール、規約のようなものは?

基本的には自分の部屋で飼い、自分がいれば共有スペースには出してもよい、キッチンには入れない、各種予防接種はしっかり受ける、など最低限のルールを守ってもらえれば、ご自身のペットと暮らすことが可能です。

――入居者のペットと保護犬・保護猫の相性問題などはありませんか?

入居前にペット同士のマッチングをしています。そこでどうしても相性が良くないなどあれば別のグループホームをご検討いただくケースも稀にあります。動物を扱う以上、「こうすればすべて解決する」という類のものではなく、継続的に検討・判断が必要な部分だと考えています。

サービス管理責任者の配置支援、動物看護師による事業所サポート

――参画法人やその事業所に対してはどのようなアプローチ、サポートを行っていますか。

物件・人材の手配、指定申請、消防設備の設置などのサポートを行っています。グループ企業との連携で、各事業所へのサービス管理責任者の配置・指導も行っています。

櫻井さんは、各事業所のサービス管理責任者に指導も行う

――グループホーム運営における、サービス管理責任者の役割はどのようなものでしょうか。

入居者は障がい等級が比較的軽い方が中心になるため、事業所内では必要な介護を行うだけではなく、コミュニケーション支援がとても重要になります。入居者自身も、何かあった時にはサービス管理責任者に話すことで、落ちつくことができ、ストレスの低減につなげられます。そのため、サービス管理責任者は、入居者の心のケアをしっかり行っています。

――サービス管理責任者には、具体的にどのような指導を行うのでしょうか?

グループホームで必要な加算を取得する場合は、個別支援計画の中にしっかり盛り込むよう指導しています。入居者への対応につく加算は個別支援の中に落とし込みをしていく必要がありますが、残念ながら、それが出来ていないケースが見受けられます。

――グループホームでのペットとの暮らしにおいては、どのようなサポートを行っているのですか?

当社スタッフの動物看護師が犬・猫の特性や飼い方のポイントなどをまとめた資料を用意しています。資料にはスタッフや入居者がペットの世話をする方法や、ペットと触れ合う時の注意点、健康管理などについて記載しています。例えば、ブラッシングの仕方や、シャンプーの仕方などですね。当社から保護犬や保護猫を譲渡する場合は、動物看護師が一頭ずつの習性や性格に合わせた飼い方のアドバイスや注意事項もお伝えし、必ず譲渡トライアル期間を設けています。

その他にも、万一に備えペットに噛まれる事故や、ペットが原因でケガをしてしまうことに対応するための施設賠償保険の紹介なども行い、スタッフや入居者に想定される問題をカバーするためのサポートを行っています。

――ペットが暮らすための設備など、配慮している点はありますか。

犬・猫共に逃走防止用の柵の設置をお願いしています。また、犬はフローリングだと足元が滑りやすいので、滑りにくい素材を使っていることが多いですね。その他、猫がいるグループホームではキャットタワーや猫専用のドアをつけたりと、設備面に関してはペットを普通の家で飼う感覚に近いと思います。入居者の居室には猫専用のドアを設けず、直接行き来させないようにしています。

また、世話人がペットの面倒を見るにあたっては、ペットに合った接し方を利用者にレクチャーしたり、音に敏感なペットもいるため、室内音なども気にかけるようにしています。

その他は、入居者の出入りに合わせペットが脱走しないように気をつけるなどといった点に配慮していますね。

――ペットの健康管理はどうしているのでしょう。

各事業所ごとに動物病院での診察やトリミングなどの世話を行う形になります。また、当社の営業担当が事業所を訪問した際、気になることがあればヒアリングし、動物看護師と連携しながらペットの健康チェックや世話の仕方のアドバイスを行っています。今後は、専任の動物看護師を事業所に定期的に派遣することも考えています。

スタッフも、ペットと共に過ごせる職場づくり

――会社の理念は「人間福祉と動物福祉の追求」ですが、事業運営の他にも理念が活かされている部分はありますか?

働き方、という点になりますが、グループホームで働くスタッフは、自分のペットを連れて職場に通うことができます。最近のペットは長生きの傾向にあり、高齢となったペットを自宅へ残しておくにも不安があることから、職場で面倒を見ることも可能としました。

――その制度で、スタッフは仕事にも集中できるようになったのでしょうか。

webカメラでペットを見守る、という文化ではない世代もいます。そのようなスタッフからは、ペットを側で見ることができるため、安心して働けるようになったという意見があります。グループホームの入居者がスタッフのペットの面倒も見てくれるなど、制度の利用が入居者とのコミュニケーション促進につながる部分もあるようです。

また、グループホームのスタッフだけではなく、本社のスタッフもペットと一緒に通勤することが可能です。スタッフの大半がペットを飼っているため、自宅に残したペットの心配をすることなく働けると好評です。

――ペットとの通勤の他、社内制度、福利厚生などで企業理念に基づいたものはありますか。

ペット給、里親給という制度(※6)があります。ペットを飼っていれば月3,000円が支給され、その子たちが保護犬・保護猫などであれば支給額が月5,000円にアップします。その他、ペットにまつわる慶弔休暇などもありますが、理念に基づいた就業規則を現在新たに整備しているところです。

※6 2020年3月時点

――広報部長がワンちゃんなのもユニークですね。

この子も、元々は保護犬だったんです。ペットを飼う時に、動物愛護センターにいる子を引き取るという選択肢があることも、この子を通して社会全体に広がってほしいと思い、広報部長に任命しています。そのような社風からか、入社後に保護犬・保護猫を引き取って飼うスタッフも多いです。

本社で寛ぐ広報部長・ワンバサダーのたいすけ

――「人間福祉と動物福祉の追求」を目指してこの先はどんなことを考えていますか。

飼い猫と一緒に入居できるサービス付き高齢者向け住宅を立ち上げたいと考えています。現状、ペットの猫を連れて入居できる介護施設はほぼないため、世の中のニーズに積極的に応えていきたいと思います。

その他にも色々とアイデアはありますが、例えば障がい者の就労に関して、労働に見合った給料が得られる仕組みを作りたいという気持ちがあります。またその一環として、健康食やペットフードの開発・生産で、収益性の高い障がい者雇用を生み出せないかと考えているところです。

取材メモ

「人間福祉と動物福祉の追求」という企業理念に基づいた特徴あるサービスを次々と打ち出すそのスピード感が印象的でした。藤田社長の掲げる企業理念に共感した人が集まることで、全国で170か所以上のグループホームという形になっているのだと、そう実感しました。

今回のとなりの介護事業所は?

藤田英明(ふじたひであき)

明治学院大学で社会福祉を専攻し、精神保健福祉士を取得。22歳から社会福祉法人にて介護職、生活相談員、事務長、施設長、理事、送迎を担当。その後26歳で起業し、地域密着型デイサービスを全国展開する。2018年からは「ペット共生型障がい者グループホーム わおん」をレべニューシェア方式で全国に展開している。また、株式会社アニスピホールディングス 代表取締役の他、講演、執筆など様々なフィールドで活躍。

櫻井大悟(さくらいだいご)

社会福祉士 株式会社アニスピホールディングス所属

障がい福祉業務を19年経験 福祉事業の開設、コンサルティング経験も多数。2019年から同社に参画。

株式会社アニスピホールディングス

2016年に設立。障がい者グループホーム「わおん」事業、100%動物看護師によるペットシッターサービス「ケアペッツ」事業、その他ペット用品の企画・開発・販売事業を展開している。「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念とし、社会問題を事業で解決する「ISSUE DRIVEN COMPANY(イシュードリブンカンパニー)」として、「障がい者グループホームの不足」、「空き家問題」、「ペット殺処分問題」の解決に全社一丸となって取り組んでいる。

サービス種別:介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、障がい者グループホーム

住所:東京都千代田区九段南2-4-4 三和九段ビル5・8階

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