複数訪問看護師によるアセスメントでケアの質を向上。ご利用者に寄り添う「精神科訪問看護」の在り方とは?-訪問看護ステーション デライト足立-

複数訪問看護師によるアセスメントでケアの質を向上。ご利用者に寄り添う「精神科訪問看護」の在り方とは?-訪問看護ステーション デライト足立-

精神科に特化した訪問看護事業「訪問看護ステーション デライト」を東京都内で展開する、H&Hホールディングス。2019年には営業所も含めて新たに7事業所を開設するなど、精神科訪問看護へのニーズの高まりに合わせて事業を展開しています。

今回は、精神科訪問看護がご利用者の在宅生活の継続にどのように貢献しているか、その具体的な取組について、訪問看護ステーション デライト足立で管理者を務める宮﨑 遼さんに話を伺いました。

服薬の確認、援助で医療とのつながりを維持

――精神科訪問看護を必要としているのはどのような方でしょうか?

服薬や通院継続をするにあたり生活支援が必要な方、地域活動に参加している方や就労移行支援事業所に通所している方、実際に就労している方など、障害を持ちながらも住み慣れた地域で暮らし、療養・症状の維持改善を目指す方々になります。

――精神科訪問看護に対するニーズが近年高まっているのはどうしてでしょうか。 地域包括ケアの視点から、精神障害をお持ちの方についても、これまでの入院生活を中心としたケアから地域生活を中心としたケアへの移行が進んでいます。その中でご利用者の在宅生活を支援できる精神科訪問看護のニーズが高まっているのだと思います。

――ご利用者と最初の接点を持つのはどのようなタイミングですか? ご利用者が病院を退院され、在宅生活に入られるタイミングですね。ご利用者の担当医師から紹介をいただき訪問看護に入ることが多いですが、ご利用者本人やそのご家族から直接お問い合わせをいただくケースも増えています。

――ご利用者の男女比や年齢層を伺えますか。

男女比はほぼ半々です。年齢層は10代前半から90歳代までと幅広いですが、その中でも40代・50代のご利用者が多く、当社のご利用者全体の約半数を占めています。

――主にどのようなサービスを提供されていますか?

ご利用者の健康管理や精神症状の観察、日常生活の観察と支援、服薬の確認と助言、対人関係の相談、社会資源や福祉サービス活用に関する関係機関との調整などが主な業務になります。ご利用者本人だけではなく、ご家族の悩みや不安の相談に応じることもあります。

2020年2月にオープンしたばかりの、訪問看護ステーション デライト足立の様子(提供:H&Hホールディングス)

――サービス内容は観察や相談に関する業務が中心なのですね。

「看護」という言葉のイメージからは少し離れる印象かもしれませんが、ご利用者の自立を目指すための声掛けや生活支援が私たちの仕事です。精神科訪問看護では「ご利用者ができないこと」に直接介入するのではなく、「ご利用者ができること」を活かす自立支援が大切だと考えています。ご利用者が地域の中でどのように暮らしたいのか、その思いに寄り添って支援していく上でも、観察や相談援助は欠かせない業務になっています。

――観察や相談援助での接し方、サポートはどのように行っていますか。

ご利用者の中には、日常生活を送る上で部屋の掃除や入浴、食事の買い物すら困難に感じている方もいます。そのような方には「お手伝いするから一緒にやってみましょう」と、ご利用者が日常生活を少しでも前向きに取り組めるように促していきます。また、ご利用者へのサポートの中でも重要な役割の一つとして、「服薬の確認と助言」が挙げられます。

――「服薬の確認と助言」が重要なのはどうしてでしょう?

入院生活から在宅生活に移行されたご利用者の一番の課題は「在宅生活を続けながら、医療とのつながりをどのように維持していくか」になります。医師の目が届かない在宅環境で、ご利用者の自己判断による服薬中断・飲み忘れなどが起きてしまうことで、症状が悪化して再入院になってしまうケースも多いです。精神科訪問看護師が定期的に病状の観察や服薬の確認・助言を行っていくことで、ご利用者は在宅生活を続けながら医療とのつながりも維持できるようになります。

1人のご利用者を、複数看護師の異なる視点でアセスメント

――精神科訪問看護師の方は、精神科での看護経験があるスタッフが多いのでしょうか?

精神科での勤務経験がある看護師は全体の5割ほどになります。精神科での勤務経験がないスタッフには、指定の精神科訪問看護に関する研修を受けてから業務に入ってもらいます。

――サービスの提供体制について伺えますか。

サービスの提供時間は1件あたり平均すると40分ほどで、訪問件数は1日6件~7件前後が多いです。また、当社ではご利用者ごとの担当制を取らず、1人のご利用者に対し必ず複数の訪問看護師が担当に付き、ローテーションでご利用者宅に伺うようにしています。

――複数の訪問看護師でご利用者を担当するのはどのような理由なのでしょう?

理由は大きく3つあります。1つ目は、個別担当制にすることでご利用者が特定の訪問看護師に過度に依存しないようにするためです。2つ目はご利用者が複数の訪問看護師と関わることでそれだけ多くの人と接することになり、その経験が社会復帰の助けにもなるという理由です。

そして3つ目は、経歴や得意分野が異なる複数の訪問看護師でご利用者をアセスメントすることで、多様な視点からご利用者を捉えることができ、ケアの質の向上につなげられることです。

――複数の訪問看護師が関わることで、ご利用者にとってより良いケアを提供できるのですね。

はい。それに訪問看護師にとっても、自分が担当するご利用者について他の訪問看護師と情報共有ができるため、ケアの内容やご利用者の状態変化に関して相談したり、異なる視点からのアドバイスを受けやすくもなります。

――複数の訪問看護師で1人のご利用者のケアにあたるには、スムーズな情報共有が重要そうですね。

そうですね、パソコンやタブレットですぐに必要な情報が確認できるよう、ケア記録はすべて電子化するなどICTを活用しています。

訪問看護に伺う際の道具一式。現場ではタブレットでケア記録を行う

また、ケア記録や就業時間などといった情報は、各訪問看護ステーションだけでなく、運営統括を行う事業本部の方でも一括して管理・集計できるようにしています。そのことにより、事業本部から各事業所へ、職員の働き方などに関して助言することもできるようになっています。

出退勤は事業所の入口に備え付けのタブレットで管理

――作業療法士もご利用者のケアに関わっているそうですが、その役割について伺えますか。

精神科訪問看護師はご利用者の精神面に関わる支援を行いますが、作業療法士は、料理や外出の支援など日常生活上のリハビリを通じて、ご利用者の身体面に関わる支援を行います。精神面・身体面の両面からご利用者に「日常生活を送れるようになる」という目的意識や自信を持っていただくことで、ご利用者自身の在宅生活や就労も含め、生活の幅が広がることを目指しています。

ご利用者の就労支援も事業展開

――精神障害をお持ちの方の就労支援にも力を入れていると伺いました。具体的にはどのような取組をされているのでしょうか。

障害をお持ちの方が出社できるオフィスを設け、障害者雇用枠を利用されている企業が切り出した業務を担当してもらっています。現在は8名の方が就労していて、内1人は当社の精神科訪問看護のご利用者になります。

――取組にあたって、工夫されていることなどはありますか。

オフィスには専門の支援員を常駐で配置し、作業内容のマニュアルの作成に携わったり、就労している方への声掛けなども行うようにしています。支援員が手厚くサポートできる環境を整えていることで安定した就労が可能となっており、就労している方の中には1年間遅刻・欠勤もなく働けている方もいます。

また、障害者雇用枠を利用いただいている企業の担当者の方にはなるべく「本業に近い業務の切り出し」をお願いしています。

――それはどういった理由なのでしょうか。

その企業ならではの仕事を任せていただくことで、就労している方は「その会社の一員として仕事をしている」という気持ちが芽生え、そういった点が就労者のやりがいにもつながっています。その他、業務の切り出しをしてくれている企業の方でも「こういう人が一緒に働いてくれている」と、就労している方を会社内で紹介してくれるといったケースもあり、そういった点も就労している方にとっては励みになっています。

精神科訪問看護師のメンタルヘルス、スキルアップも充実

――精神科訪問看護師の方にもメンタルヘルスが求められる環境かと思うのですが、どのようにフォローしているのでしょう。

各事業所の職員は月に1回、管理者と面談を行っています。そこで管理者がスタッフの変化などに気付いた場合は、必要に応じて事業本部の方からも対応のフォローを行うなど、精神的な負担をできるだけ軽減できるような仕組みを取っています。

また、ご利用者のことを考えすぎて根を詰めず、仕事とプライベートのスイッチの切り替えがしやすいよう、残業を極力減らす取組をしています。業務効率化にあたって、勤務時間や訪問先でのケア記録を本部でもすべて確認しているとお伝えしましたが、残業時間が増えて来た訪問看護ステーションにはすぐに人員を補充するなど、事業本部と各訪問看護ステーションが連携してスタッフ一人ひとりの働き方改革に努めています。

――その他、人事・労務面での取組はありますか?

有給休暇を時間単位で付与できるようにしており、この制度はスタッフからの満足度が非常に高い取組です。子どもの急な通院などにも効率的に対応できますし、休みを取ったスタッフのフォローに回るスタッフも、「2時間だけフォローすれば大丈夫」など、半日・1日単位の有給休暇と比べフォローにかかる負担が大分減りました。そのことで休暇を取得しやすい雰囲気にもなり、有給休暇の取得率も、制度導入以前に比べて向上しています。

――スタッフのスキルアップにつながるような取組はありますか?

毎週木曜日に、各精神科訪問看護テーション所属のスタッフが持ち回りでオンライン研修を行っています。訪問看護師や作業療法士も含め、スタッフ一人ひとりが多彩な知識・経験を有していますので、様々なテーマで研修が実施されています。研修内容も自分の経験などから得たことを話したり、自分が受けた外部研修の内容を紹介する、保険制度についての理解が進むような解説を行ったりとバラエティーに富んでおり、スタッフにとっても学びになるだけでなく、他のスタッフの努力から良い刺激を受けることも多いようです。

――最後になりますが、精神科訪問看護という仕事の魅力をどこに感じていますか?

精神障害をお持ちの方がその人らしく、自立した生活ができるよう支えるのが精神科訪問看護です。私が担当したご利用者の例を挙げると、以前は退院後3か月で再入院となった方が、再入院までの期間が6か月、1年と伸びたり、以前勤めていた職場に復帰できるまでになったりします。そのような形でご利用者の人生に寄り添い、その人らしい生活を支えることができるのが精神科訪問看護の醍醐味であり、やりがいだと感じています。

※本インタビューは2020年1月24日に取材を行いました

取材メモ

精神科訪問看護ならではのご利用者との関わり方を情熱的に語られる宮﨑さんの表情がとても印象的で、精神科訪問看護にかける気持ちの強さが伝わってきました。宮﨑さんによれば「精神科訪問看護の認知度は地域の中でもまだまだ低い」そうで、事業所の運営と共に、サービスの認知・普及にも取り組んでいきたいとのことでした。

今回のとなりの介護事業所は?

宮﨑 遼(みやざきりょう)

訪問看護ステーション デライト足立 管理者 訪問看護師

精神科の病棟で12年の勤務経験を持ち、2019年4月から訪問看護ステーション デライトで勤務。2020年2月に現在の事業所の管理者となる。

訪問看護ステーションデライト足立

「訪問看護ステーション デライト葛飾 足立営業所」から事業所形態を変更し、2020年2月1日に開設。現在は訪問看護ステーション デライト全体で、営業所も含め10事業所を展開している。

サービス種別:精神科訪問看護

住所:東京都足立区西新井栄町2-26-9 牧野ビル1階

運営:株式会社H&Hホールディングス

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